ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

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荒唐無稽ラブマゲドン

レベコン/FFFHT4の四冊目です。

オールスターズ

■A6/P152
■オールスターズ。短編20話。サイトのイナズマ実験室テキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■半夕・おさみこ・ヒロ玲・ふどたか・飛まこの5カプに、それぞれゲストが1名追加されて話が展開します。
■半夕(+リュウジ/豪炎寺/夏未/マックス)、おさみこ(+円堂/秋/目金/西垣)、ヒロ玲(+土門/塔子/角馬/マキ)、ふどたか(+一之瀬/綱海/リカ/瀬方)、飛まこ(+春奈/鬼道/風丸/染岡)。
■飛鷹くんとまこちゃんはコンビです。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ★








【荒唐無稽ラブマゲドン】

 あと半日で、世界の終わり。
 そんな刹那が、訪れたとて。
 手に手をだなんて、取ったりしない。
 それが真理で、真実だって。

 あのね、そんなに怒ったり怒られたりしなくてもいいじゃん、てマキは思う。
 少しだけくせのある青い髪は興味がなさそうな振りをして、だんだんと冷静さを失ってしまいには絶叫する。クールにしている表情が、呆れてから軽く落胆して絶望へと向かってまっしぐら。玲名が冷淡なのは見かけだけだもんね、と実は熱いその胸のうちにまぶたを伏せた。
 これまたたいそうくせっけの赤い髪は、やわらかそうな笑みでこの宇宙に存在する。薄っぺらい笑顔は世界を生き抜くための知恵ではなく地顔なので、よけいにある種の怒りを誘った。むしろ諦念であふれているのはこっちだ、と売られたケンカも買わないヒロトに溜息する。
 カラン、とラムネの瓶を傾けてはビー玉が取り出せないかを伺う。瓶を割らない限りはどうせ取れないんだけど。でも、なんだかこの手にできそうな気持ちになって、毎回マキはビー玉をにらんでしまう。ひょいと瓶を斜めにしたら、綺麗な水色のガラスの向こう側で冷戦が繰り広げられていた。あの二人も飽きないなあ、とマキは外れないビー玉と心で格闘する。
 稲妻町のはしっこにある吉良邸にも平等に梅雨はやってきて、毎日湿度が高く暑い。本当に梅雨なのかな、とマキは疑っている。こっそりとひっそりと梅雨は明けてしまっていたりして。だって、毎日こんなに夏空で、毎日こんなに暑くて、毎日こんなにラムネが美味しいのに。はてさて、と縁側から覗く高い空と夏雲を見上げた。
 手にしたラムネの瓶は単眼鏡の役割をする。分厚い瓶の底は涼しげな水色をその体内に称えて、外界を映す。世界はクリアなライトブルーでマキの右目を彩った。のほほんとした日常ばかりでは退屈になる時もあるけれど、世界平和はいいものじゃあないかな、と考える。皇マキの髪色みたいな水色の世界は、どうやら闘争に満ちていた。
「お前に指図されるようなことじゃない」
 と玲名は素っ気なかった。冷ややかな美人だなんて評されるけれど、玲名は笑うととても可愛い。もっと笑ったらいいのに、とマキは思う。そうと口にすると、「よけいなものが沸いてくるからいい」と苦笑した。「よけいなもの」には吉良邸の男子を含むのか含まないのか、微妙なところだ。
「でも、一般的な評価で思考じゃあないのかな」
 とヒロトは端的だ。やわらかな物腰で紳士になれると指摘されても、ヒロトは怒るととても怖い。もっと怒ったらいいのに、とマキは思う。そうと口にすると、「生き難くなるからいいんだ」と笑った。すでに「生き難い」んじゃないのかな、と吉良邸の女子を代表して宣言しておく。
 二人がなにについて話しているのかは分からない。水色のガラスの向こうでゆらゆらと蚊取り線香の煙がたゆたう。単眼鏡は白い煙さえも水色に変えてしまう。今のマキの視界の中は、マキの世界はすべてがクリアなライトブルーだ。
「いったいどんな権利があって、そんなことを言う」
 玲名は少し芝居がかった口調をしている。綺麗な外見と揃うと、なんだか無敵の壁を築いているみたいだ。指摘したら「そうか?」と困っていたので、無意識。意識しているよりもよっぽどよくない。第一印象が悪くなってしまう。
「権利はなにもないよ。強いて言うなら、希望かな」
 ヒロトはいつもふざけた言い回しをする。張りつく笑顔と一緒だと、なんともからかわれているみたいだ。注意したら「まあね」と苦笑していたので、意識的。無意識よりもひたすらによくない。第一印象がよくないままになってしまう。
 あれ、第一印象がよくないコンビだ。ぱちりとマキはまばたきをした。水色の世界の中で二人は、むっとしていたり薄く笑っていたりする。ラムネの瓶の中でビー玉はくるくると回る。カラン、と綺麗な音を世界に響かせている。相変わらずビー玉は取り出せない。
「その方が、玲名に似合うと思うからだよ」
 ヒロトが音にした台詞で、服の話なのかな、と合点する。あんまりヒロトは他者の服装にうるさく言ったりしないのに、珍しい。苦笑とわずかに楽しそうな頬をしていた。目は変わらず笑っていない。ヒロトが目さえもしっかりと笑った風に見せる技術を持ったら、詐欺師になってしまうかもしれない。だからこのままでいい、とマキは思う。
「見たこともないのに、なぜそうと断言する」
 玲名はすでに氷点下のツンドラ地帯みたいだった。ビュウウ、と吹きすさぶ雪原での吹雪を想像する。握った拳が小さく震えている。玲名は見た目と違って照れ屋だから、誉め言葉を素直に受け取れない。玲名が礼讃を真っ直ぐに捉えるようになったら、女王様が完成してしまうかも。それはちょっと面白いな、とマキは思う。
 吉良邸の縁側の盤にぺたり、と足を伸ばして座る。少しだけひんやりとした木の感触がマキの体躯を冷やしていく。体の中では、ぐるぐると周回するラムネがマキの中身を冷やす。単眼鏡の先ではぐつぐつと煮たっている世界が展開しているので、みんなラムネを飲んだらいいのに、と世界平和を推奨した。
 水色の世界の中で温度を上げていた玲名は、我慢ならなかったのかとうとう爆発した。沸点が低いわけじゃあなくて、だんだんと熱を帯びていく体躯の色の変遷が見えるみたいだ。あんまりにも分かりやすいから、いつしかどこかの誰かに騙されてしまうかも。でも、たぶん玲名は騙されないで踏み留まる。万が一踏み留まれなかった時に、ヒロトの張りついた笑顔が役に立つんじゃないかな、とマキは思ってるんだ。

      ◇

「玲名はいつもワンピースじゃないか。だから、たまには気分を変えてみたら」
「うるさい。人の好みに口を出さないでもらおうか」
「どうしても嫌なら、セパレートはどう? あれもいいと思うよ」
「黙れ。お前の好き嫌いは私には無関係でな」
「なぜそんなに頑ななのかな。絶対に玲名はその方が綺麗なのに」
「違うな。布地の一枚や二枚で変わるものでもなかろう」
「そんなことないよ。一枚や二枚で結構簡単に変化するものだよ。まあ、表面的な話だけれど」
「そら見たことか。上っ面だけ変えてなんになる。意味がないだろう」
「世界平和が訪れるよ。いや、ひょっとしたら宇宙平和かも」
「お前の話は支離滅裂だ、ヒロト」
「そんなことはないよ」
「そんなことはあるだろうに」
「なぜって、玲名がビキニだったら、僕の心が世界平和の素晴らしさを叫ぶ」
 の台詞の途中で、拳を握った玲名の右手がヒロトの顔面と体を吹っ飛ばした。赤いくせっけはザアッ、と縁側に面している和室の畳にダイブ。水着の話だったのか、とマキはとんでもない速度で引いた。わなわなとした様子の玲名は青い髪を振り乱すこともなく、震える拳を見つめている。数秒で冷淡な目線に戻った。
「こんなに心を砕いているのに、分かってもらえなくて寂しいよ」
 ヒロトの口上はとてつもなく嘘くさいから、やっぱり詐欺師まで一直線かも。もうちょっと上手く言ったらいいのに、とマキは思う。でもヒロトの口調は今さらだし、玲名に対してはそれが加算されているから、仕方がないのかもしれない。
「一秒でも早くその身が砕けてくれ、その心とともに」
 玲名の返しはひどく容赦がない。畳に起き上がる姿を見下ろす視線は、ひどくヒロトを蔑んでいる。さっき「綺麗なのに」と言われた時に、玲名の瞳がわずかに見開いた。もうちょっと素直になってもいいのに、とマキは思う。でも玲名が照れ屋なのは今さらだし、ヒロトに対してはそれが乗算されているから、仕方がないのかもしれない。
 頼んだわけでもないのに女の子の水着の話に口を突っ込んでくるヒロトにはドン引きだけど、でもそこを差し引いても、一理あるんだよね、とマキは頷く。カラン、とラムネ瓶の中でビー玉は転がる。なかなか取り出せはしないけれど、涼しげに音を鳴らす。だから。
「ねえねえ玲名、ビキニって可愛いよ。マキはいっつもビキニだよ」
 ちらりと縁側を見やった玲名は、「マキはいいんだ。普段から元気で可愛いからな」と息を吐く。畳にあぐらをかいたヒロトは玲名の背中側でぐっ、と親指を立てる。もうちょっと上手くやりなよ、とテレパシーした。ヒロトは片頬を持ち上げる。ダメだ、通じなかった。もうもうもう、超能力のない元宇宙人ときたら!(マキもだけど)
「玲名は別にビキニがやらしいから着たくない、って派じゃないでしょ。確かに元気なタイプじゃないかもしんないけど、玲名はすごく可愛いよ。絶対似合うよ」
 玲名ははあ、と溜息をついて、「マキは優しいな。でも、お世辞はいいんだ」と小さくつぶやいた。マキはその言葉に仰天するしかない。じっと玲名を凝視してしまったら、自信なさげな瞳の向こう側で、玲名の後ろ側でヒロトがやれやれ、と両手を持ち上げる。やれやれ、じゃないでしょ、バカ!
 なんとか言ってよ、と通じないテレパシーでヒロトをにらんだ。「じゃあ、明日水着見に行こうよ。玲名はビキニ似合うんだって、マキが分からせてあげる」と訴える。「それはいいね。俺も連れてってよ」の台詞は最後まで音にならずに、ヒロトはまた畳にダイブした。玲名がけだものを見る目つきで眼下を見下ろし、右の足首をくるくると回す。
「行くのマキだけで、試着するだけならいいでしょ?」
 懇願するように縁側の盤から玲名を見上げた。青い髪は困惑した頬で少しだけ迷っているようだ。ここでヒロトが上手いこと言ってくれないかな、と考えたけれど、むしろ黙っててくれた方がいいかもしれない。玲名がよけいに意固地になっちゃうかも。
「ありがとう、マキ」とわずかに笑んだ目元にじわりと水滴が浮かぶ。「ちょっとちょっと、玲名!?」と動揺してしまえば、ヒロトに「あーあ」と言わんばかりに目線を投げられた。玲名にぶたれて蹴られてばっかりのヒロトに、そんな目で見られる筋合いない。
「ごめん、そんなにやだった? だったらごめん。ただ、玲名には似合うと思って」
「違うんだ」
「え?」
「マキの気持ちは嬉しい。嫌じゃない」
「あ、えっと、そう?」
「うん」
「じゃあ、なんでそんな泣きそうなの?」
 玲名が気恥ずかしそうに視線を外した。マキはぽかん、として玲名の言葉を待った。畳にうつ伏せて涼しそうなヒロトはにやにやしている。玲名が嫌じゃないのはよかったけれど、いったいぜんたいどういうことだろう。はてさて、と摩訶不思議が胸に広がって、カラン、とビー玉だって揺れる。外れそうで外れなくて、とてももどかしい。
 すい、と縁側に膝を折ってマキにこそりとつぶやく。玲名は偉く恥ずかしそうだった。加えて悔しそうにしていて、その様子を見てヒロトがくすりと笑う。ぎり、と玲名はヒロトをにらんだけれど、赤いくせっけは知らんぷりをして畳の涼しさを味わっている。
 な、なるほど、とマキは頷く。早く気づいてあげたらよかった。「紐が切れるかもしれない」と少しだけ泣きそうな玲名を見やる。ついその胸元に目線をやったら、「やめてくれ」とまぶたを伏せた。うーん、とマキは唸ってしまった。マキの心の中で、ビー玉はゆらゆらと揺れている。ラムネの中をたゆたう。あとちょっとなんだけどな、と小さく唸った。刹那、ビー玉がカラン、と音を立てた気がした。
「あの、玲名はビキニが嫌いじゃない、ってことでいい?」
「ああ」
「可愛いと思う?」
「可愛い。ただ、私の胸が可愛くない」
「「じゃあさ、上だけ二枚着けちゃえば?」」
 マキはぱちり、とまばたきをした。ヒロトと声が揃ってしまった。玲名は目を見開いて、ヒロトはなんだかにやりとしている。気を取り直して、「細いのに胸がある女の子だと、二枚でカバーするみたいだよ。雑誌で見たことある」と青い髪に続ける。「違うデザインで二枚着けてるのも可愛いし」とつなげたら、「そうか?」と態度が柔らかくなった。でも、玲名は同じことを言ったヒロトのことは完全無視だ。ヒロトはそれでも気にしないみたいで、相変わらずにやにやしている。
「うん。明日試しに行こうよ」
 の台詞に玲名ははにかんで笑った。あ、可愛い。ビー玉がはじけてこぼれるみたいだ。吉良邸の和室で玲名を見ているヒロトはどうしてだか満足そう。ぴ、と左手の親指と人差し指で丸を作ってみせる。オッケー、じゃないでしょ。まったくもう。

 ラムネの瓶からは、ビー玉は取り出せない。
 でも、今にもそれが動き出しそうに、こぼれそうになるのなら。
 チャンスを伺っているのが、未来の詐欺師なのかもしれない。
 この詐欺師になら騙されちゃっても、玲名は幸せなのかもしれなかった。

(近未来の詐欺師と詐欺師使いかも、とマキは思ったんだ)
 



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