ハニー★カム:日誌

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イカサマなくとも、ミラクルは降る

復活祭!改5の三冊目、(通算)獄ハル4冊目です。

獄ハル4

■B6/P388
■獄ハル。短編48話。サイトの獄ハルテキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ★








【イカサマなくとも、ミラクルは降る】

 一丁上がり、とサイコロを出し。
 価値観なんて、違っても。
 インチキなんて、選ばない。
 願っているのは、いつもそれ。

 8:00
 あと五日でクリスマス。ぜんぜんメリーじゃないけど。ついでにあと四日でクリスマスイヴ。俺には関係ないけど。昔から、中一の時から一緒にいられたらいいな、って女の子はいるけど。ぜんぜん一緒にいられないし。いいんだ、クリスマスにみんなでパーティーするから。そこに彼女もいるから。
 並盛町はすっかりとしっかりと冬支度。桜の葉は散ってしまって、紅い煉瓦の舗道でひらり、と黄色で落下する。びゅう、と寒風だって吹きすさぶ。俺が寒さが苦手でも容赦がない。手袋を忘れた。指先が冷たくて、うーん、と唸る。かさり、と紅葉した葉を踏み締めると、あんまり寒くてマフラーに首をすくめた。
 並盛町駅から並盛高校まで真っ直ぐに伸びている煉瓦の上で、握り拳のダークブラウンのポニーテールと、ざあっ、と右手を世界に振り回す銀髪。喧噪。怒号と主張と科白。ぱっ、と見た感じは美男美女なんだけどな、って言ったのは誰だっけ。俺だったっけ、と摩訶不思議。穏やかでない雰囲気。印象。まあ、そんな感じばっかりの二人だけど。
 新体操部のエースがばあっ、とケンカの原因になっているらしいそれを取り上げた。ホワイトのスマホくらいのサイズ。でも、スマホよりも厚いみたいだ。幅がある。手のひらには乗りそうな長方形。がっ、と並高二年A組帰宅部所属(沢田綱吉も)の腕が白いそれを取り返した。
 なんだろあれ、と数メートル後方から不可思議で見つめていたら、銀髪が俺に気がついた。「おはようございます、十代目!」と急激にぱあっ、と笑顔になった獄寺くん。変化がちょっと怖い。「行きましょう!」とぴかぴかの笑顔が俺の背中を押す。あの、ハルがすごく怒ってるけど、いいの?

 9:50
 ざわざわ、とする二年A組の教室内。うるさい。あたし昨夜あんまり眠れなかったのよね。だから、静かにしといてほしいんだけど。寝たい。うー、と小さく唸る。まぶたを伏せる。指先を乗せたら熱い。目にクマできちゃう。そんなの最悪でしょ、運命の相手を待ってる身としては。
 なんなのよ、と目を細めて教室内を観察。教師は生徒には背を向けてる。「あー、だからして」とかしゃべりながら数式書いてるけど、先生、みんな聴いてないってば。しっかりしてよ。瞬間、ひょい、とあたしの席の手前の列で、ホワイトのそれが横断。右から左へ。つい睨んだ。
 お菓子を食べたり回したりするんなら、せめて休み時間にしてよね。風紀が、ってうるさいやつがいるんだけど。トンファー飛んでくるわよ。うーん、とクラス委員の立場として唸る。魔法の呪文を唱えてもいいんだけど、面倒だな、と溜息。あたしの柄じゃあないしね。
 さて、どうしよ、ともう一度まぶたを伏せて唸ったら、ことん、とあたしの机に白いそれは乗せられた。左隣から。ちらり、と隣を見やってから、きょろ、と周囲を見渡す。黒川花の席は教室の中央。後方の一番右から獄寺が、一等左からハルがぶんぶん、と手を振る。あんたたちか。
 なにこれ、とホワイトの長方形を睨んだ。ぱか、と蓋らしき部分を開ける。イメージとしてジッポを開ける感じにしてみたら、その中にカラーペンくらいの棒状のもの。やっぱりホワイト。長方形に刺さった外装で、ぴかり、とイエローに点滅。充電? ああ、あれか、とあたしは頷いた。

 10:00
 移動教室で二年の教室の前を通ったら、すれ違いざまに花に白い塊を渡される。なんだこれは、と問う前に、いつもの飄々とした姿は消え失せた。はてさて、と首を傾げる。化学の教科書とノートを手にしたまま、塊に向き合う。二年A組の教室の前で佇む。心底謎な物体である。
 その蓋を持ち上げて、中身のペンのようなものを手にする。ペンにしては短くはなかろうか。大仰な万年筆だな、という感想である。しかし、ペン先が皆無であるが、と不可思議だ。くるり、と右手の先で回転させたら、ペンの根元がレッドに点滅。なんだ、壊れたのか。
 ちかちかとする、ホワイトの万年筆みたいなそれを持て余す。もしや、この点滅は俺のせいなのであろうか。これを持つ資格がないということなのであろうか。まあ、俺はこれがなんなのか分からないのだが。むむむ、と長方形にそれを戻してみれば、レッドはイエローに変わった。
 刹那、ばあっ、とワイシャツの袖を少しめくった腕がそれを掴む。ジャラリ、とシルバーチェーンが鳴った。「サンキュー、芝生!」と獄寺が走り去る。なんなのだあれは。お前の私物か。しかし、曲がりなりにも礼とは、獄寺にしては大人になったものである。うむ、と俺は頷いた。
 うんうん、と胸の前で腕を組んでいたら、「今度はハルに渡してくださいね!」と新体操部のエースが廊下を滑走する。ポニーテールの髪先が揺れる。あれは全力疾走ではなかろうか。転ぶなよ、とついつい見守ってしまった。そんな笹川了平であった。

 10:40
 のんびりと眠りの世界をたゆたってたら、オレの耳元でコトリ、と音。うーん、なんだろ、とまぶたを持ち上げる。机にうつ伏せていた頭を少しだけ持ち上げる。視界の端に、ホワイトの長方形。なんか、朝から教室の中でみんながぐるぐる回してるやつ。なんだこれ?
 机の上に顎を乗せたまま、ひょい、と持ち上げる。スマホよかちょっと重いくらいかな。でも手の中で、持ってるのにちょうどいいかもしんね。サイズとしてロージンバッグに似てっかも。なんか落ち着くかも。うん、と一人で納得して右手の中。軽く握り締める。
 もっかい寝よ、と上半身を机にひっつけた瞬間に、「山本さん、それください」と後方から声がする。ひそひそ。ん、とぼんやりと振り返る。オレの席の二つ後ろから、「お願い」と祈る科白。ハルにお願いされた、となんか嬉しくなる。末期。でもいーんだ、それが山本武。
 カタン、と椅子から立ち上がる。ちょっとふらり、とする。まだ眠い。すたすた、と三歩でハルの席横まで。ほい、と渡す。指先が触れた。ちっと照れる。また嬉しい。彼女は「あ、ありがとうございます」と慌てて、ひっそりとつぶやいた。
 授業中だったので廊下に立たされた。なんかレトロ。廊下までの距離を教室の一番後ろを通る。出口手前で獄寺に睨まれた。「てめえ、ふざけんな」と文句。「でも、渡したかったし」とニカ、と笑った。廊下座ると冷たい。でも眠い。ちっと寝とこ。みんなおやすみ。

 11:40
 へえ、これが噂のそれなんだ。ぱちり、とあたしは瞬きをする。ホワイトの長方形はくるくると二年A組の教室を回った。並高校舎内も。どちらも一周したのかは分からなかったけれど、教室に戻ってきた。ぐるぐると回転する教室では笹川京子の席に回ってこなかったので、興味深い。
 ふうん、とちょっと太めのペン状の先に刺さっている筒を見つめる。口をつけてしまったらやっぱりいけないだろうか、と考える。持ち主が持ち主だし。気にしちゃう女の子がいるかも。人差し指と中指の間に挟んで、ぴ、と口元に掲げた。隣の席のツナくんが仰天したのが分かった。
 ハルちゃんに、「こんななんだね。ありがとう」と返す。ハルちゃんは「はい」と笑顔であたしから長方形を受け取ってから、教室の出入口の席に対して、にやり、と笑った。獄寺くん。悔しそうにして今にも舌打ちしそう。「火は出ないんだよね。面白いね」と表現した。
 首を傾げながら、「蒸気だけだなんて不思議」と素朴な感想を持つ。ひょっとして、獄寺くんの通り名も変わるのかな。「スチーマー・ボムになるのかな」と声に出してしまったら、教室の出入口の席でガシャン、となにかが落下した。軽い破壊音。
 あたしの右隣のツナくんは、それを振り返り蒼白。あたしの席の左側に佇んでいたハルちゃんは、ぷるぷるとその拳を振わせた。三秒後に弾けるように笑い出す。「京子ちゃん、最高です!」とお腹を抱える。「そうですね、蒸気ですもんね!」と笑い続ける。そんなに面白かった?

 12:30
 ガラッ、ととんでもない勢いで、保健室の横開きのドアが開放。うるせーぞ。昼休みだ。まあ、オレはいつも休み時間みてーなもんだが。「シャマル先生、放課後まで預かってください!」と新体操部のエース。「レオタードに着替えてから来い」と返したら、「はひ!?」と意外そうだ。
 ガン、とドアを蹴り上げる脚。結構長くなったじゃねーか、隼人。「それはオレんだ、返せ」と仏頂面。「わ、分かりました。実は意味は分からないですけれど、着替えてきます……」とレディ。このレディ大丈夫か。世間に騙されたりしねーか。目を細めて隼人を見やった。
 ちっ、と舌打ち。「アホか。着替えたりしねーでいんだよ。フカしだ。このロクデナシの言うことは放っとけ!」と絶叫。「でも、お願いするんですし……」と三浦ハル。やれやれ、と目を伏せてレディから手渡された白い長方形を見やった。
 刹那、あ、と驚嘆する。「隼人、お前どこで手に入れた! これ今予約一杯で、コンビニなんて二十人待ちなんだぞ! 店舗にも在庫がねえ!」と今度はオレが叫ぶ。ふふん、と自慢げな口元。バカかお前は。子供か。まあ、そうだな、まだガキだもんな。十七だ。
 おお、これが、と手元のそれを見据える。「オレにくれ」とウインク。「やらねー!」「あげません!」とガキとレディの声が重なった。二重奏。息はぴったりだ。結構似てるんじゃねーのか、この二人、と口端が持ち上がった。面白い。なんとはなしに、くっ、と喉の奥で笑った。

 12:50
 呼び出し。廊下を歩いて職員室を目指していたら、廊下と面している部屋でぎゃんぎゃんとうるさい声。ちらり、と目線を投げて通り過ぎようとしたら、見知った顔が三つあった。なんなのかしら、と入口で様子を伺う。三十秒ほどで状況を理解。ああ、なるほどね、と頷いた。
 カツン、と踵を鳴らす。「じゃあ、保護者に返してもらうわ」と白衣をひっかけている男から、白いそれを取り上げた。モスキート・シャマル。これで腕は確かなんだから、嘘くさいわよね。「げ、姉貴……!」と隼人は昏倒。「ちょっと、獄寺さん!」とハルは溜息。まったくだわ。
 はあ、と私だって溜息が出た。「あのねえ、隼人。あなた出席日数が足りなくて、進級危ないそうよ。保護者が呼び出されたわよ」と手の中の長方形を弄びながら告白。あら綺麗、これ。「お前は、オレの保護者じゃねーだろ……」と息も絶え絶え。しっかりなさい、本当に。
 すい、とホワイトのそれを取り出した。「お父様もお母様もイタリアでしょう。だから私が代理よ。感謝なさい」と主張。ぴたり、と口元に当てて吸ってから吐き出す。ホワイトの蒸気らしきものに、へえ、と感心する。「ビアンキさん、お似合いです」とハル。あら、ありがとう。
 ぎり、と歯を食いしばり、「てめえ、それはオレんだ……」とふらつく背。「お前よりビアンキちゃんのが似合うだろ」と誉められても嬉しくない。「あなた、未成年らしくないわよ」と指摘すれば、「今更なにがだよ……」と反論された。十七らしくなさい。預かっておくから。

 13:30
 並盛高校の廊下を歩いていたら、はあ、と白いそれを吐き出す姿がある。向かいから闊歩。五時限目だ。「火気厳禁なんだけど」とどこかで見たようなほっそりした姿を睨んだ。「あら、雲雀恭弥」と瞬く瞳。じっ、と見据えたら、ああ、赤ん坊とよく一緒にいる女、と気がついた。
 くすり、とうっすらと笑う口元。「火は出ないわよ。蒸気式なの」と親指と人差し指で支えるホワイトのペン。「並高に可笑しなものを持ち込まないでよね」と釘を刺す。「私は生徒じゃあないわよ」と返す唇から白い煙。いや、相手の主張によると蒸気。僕はどっちでもいいけど。
 ぱちり、ともう一度瞬きをした相手が、「ああ、そうだわ」と一言。「隼人に返しておいてくれる?」と白い長方形を差し出した。ホワイトのペンはそれに収納。「嫌だよ。第一、隼人って誰」と訊ねてみた。「獄寺隼人よ。ボンゴレファミリーでしょう、あなたも」とのたまった。
 ああ、あれか、と腑に落ちる。刹那、視界の右上で二年A組の表示。「そこだよ」と指さす。教室の後ろの出入口から、「姉貴!」とうるさい声。どうしてだか相手はその科白を知らん振りして、「はい」と僕にそれを手渡した。そうだ、と少し面白い思考が閃く。
 カチリ、とホワイトの蓋を開けてみて、「じゃあ、赤ん坊と渡りをつけてくれる?」と発した。交換条件。「リボーンに? いいわよ。沢田家にいらっしゃい」と返答された。「止めてよ、ビアンキ、怖いよ!」と小動物の声。「分かったよ」と受け取れば、くすり、とその頬はほころんだ。

 14:40
 ないな、いないな、白いアレ。きょろきょろ、と午後の並盛高校を闊歩する。「よし瓜、探してこい!」じゃあないと思うんだ。ハヤトのヤツ。ボクは警察犬じゃあないし。犬じゃなくて猫だし。実は猫でもないし。ボックス兵器だしね。姿だけの猫。にょおん。
 アレっていうのは、なんだか白いヤツ。長方形でちょっと分厚くって、ハヤトが手に入れるのに苦労してたヤツ。ハヤトは、「これで禁煙も終わりだぜ!」と嬉々としてた。「本当ならブラックがいいけど、まあ、仕方ねえ。ピンクでなくてよかった」とうんざりとした。
 きょろ、と見渡して、数メートル先に重厚な扉。あそこかも。ハヤトが「あいつが持ってる」とか言ってたし。ドアの手前で佇む。カリカリ、と引っかく。開かない。うーん、ボクじゃあドアノブは回せない。やれないこともないけど、ちょっとムズカシイ。ぐるっと回って、窓から行こうかな、と考える。
 扉に尻尾を向けた瞬間に、カチャリ、と開くドア。くるり、と振り返る。むっ、とした真っ黒な瞳とばちり、と目が合った。ボクが一つ鳴いた途端に、スイ、と閉まりそうになる。ひょい、とボクは応接室に滑り込んだ。すたすた、と室内を進む。ヒバリは不機嫌そう。
 革張りのソファーに放り出してあるそれを見つけた。ぺし、と前脚で押さえて、「にょおん」と黒髪を見上げる。「……ああ、それ。いいよ。僕のじゃあないし」と呟く。ヒバリはむっ、とした顔のままボクとホワイトの長方形をぽい、と応接室から放り出した。

 15:30
 びゅう、と並盛町には寒風が吹きすさぶ。ひやり、とした風がハルの髪先を揺らす。この右手に握っているのはホワイトのそれ。並高グラウンドの中央で、ギリ、とペールグリーンの瞳に睨まれた。獄寺さんは紺のニットのカーディガンを着ていて、それでも寒そうに頬を歪める。
 まるで誰かと誰かの運命みたいに、並高の校舎内をくるくると回った白色。ぎゅっ、といっそ親の敵のような塊を握ったら、目の前の銀髪はいまいましそうに舌打ちした。これはハルの正義、と唇を噛みしめる。にょおん、と紅い炎を燃やした子猫が足元で鳴く。
 並高のグラウンドには、外壁の内側に沿って桜。もう、すっかりと葉が散ってしまった。幹だって寒そう。頬がぴりぴり、とする。闘いの予感。まあ、朝からずっと闘っているんですけれど。そろそろ決着をつけたい。きっ、と彼を睨む。ぎろり、と睨み返された。
 なにかを祈るように手にしているホワイトのそれは、彼には似合わない。レッドだったらいい、というわけでもない。これはハルの自分勝手な気持ち。分かってる。でも、どうしても認められない。ああ、なんだか、彼と初めて会った中一のころみたいだ、とおかしくなった。
 くすり、と小さく笑う。彼がむっ、としたのが分かった。違うんです。そうじゃあなくて。ずっとそうだったの。十三歳の時から、三浦ハルは彼とケンカばかりで、叫んでばかりで怒ってばかり。それは真剣だったけれど、でも、別に嫌じゃあなかった。獄寺さんには嘘はなかったから。

 15:35
 並高のグラウンドに棒立ちだ。寒い。びゅう、と校舎側からなぶる風があいつのスカートの裾をめくる。短い、っつの。見えるだろーが。ミニスカの上は長袖ブラウスの上にニットのベスト。お前も寒いだろーが。そろそろ終わりにしようぜ、と睨み据える。
 ハルの足元には瓜。あんにゃろう。取って来い、っつったろーが。瓜はいつもハルの味方だ。いつもいつでもだ。「戦闘ではいつもハヤトの味方してあげてるでしょ」みたいな面。すましてる。辟易。ざけんな、誰の炎で動いてんだお前は。ぎり、と四つの猫目を見返した。
 ハルが握ってるのは、獄寺隼人が大層難儀して手に入れたブツだった。なんでだか、ダイナマイトの仕入れよっか時間がかかった。国内店舗に在庫はゼロ。コンビニで予約可だったから、バイトするか、とまで考えたほどだ。有利かも、って。オレがだぞ、マジかよ。
 はあ、と息を吐く。真っ白だ。並盛の最低気温が謎。指先が冷たい。今ポケットからボックスを出したら、速攻で落としそうな予感。出さねーけど。戦闘じゃねーし。でもまあ、瓜は引っ込めた方が楽かもしんねえ。それでも、出しといてやる。お前の大好きな猫。
 くすり、と小さく笑う。ハルがむっ、としたのが分かった。違げーよ。そうじゃあねえ。ずっとそうだった。十三歳の時から、獄寺隼人はお前とケンカばかりで、叫んでばかりで怒ってばかり。それは真剣だったけど、でも、別に嫌じゃあなかった。お前には嘘はなかったから。

 15:36
 ざあっ、と冬の風が吹いて二人の頬を冷たくする。なんだかそれが自然なことみたいに思えた。ざらり、と風に動かされて運ばれるのはグラウンドの砂。からからです。真冬の十二月。ずっとずっとむっ、としてハルを睨んでばかりだった顔がわずかに持ち上がる。ハルも同じ。
 どうしてでしょう。不思議。ああ、摩訶不思議。並盛には、世界にはおかしなことがいっぱいです。どうしてだか、右の手のひらを伸ばしてハルの頬に触れる獄寺さんが照れくさそう。なんでこうなるんだ、って表情。ぱちり、と瞬きをした。彼の手があったかい。寒風にだって負けない。
 すごい熱量。すい、と近づける頬と唇がまるで当然みたいで、どきり、とするハルはふしだら。にょおん、と足元で子猫が鳴く。不思議そう。ああ、瓜ちゃん、ハルもおんなじ気持ちです。どうしてこうなるんでしょう。ぴたり、と触れた唇がひどく熱いみたいで、なんて体温。不可思議。
 目を細めた獄寺さんが睨んでくる。目閉じろよ、くらいの勢い。いやです。だって見ていたい。意地を張って睨み返していたら、無性におかしくなる。くすくす、と笑う。笑うことで、唇がくっついたり少しだけ離れたりする。気持ちいい。もういい、と言わんばかりに彼がまぶたを伏せた。
 時間が止まってしまうくらいにたくさんキスしてみたら、はあ、と吐き出した息が白くない気がした。ピンクじゃあないでしょうか。なんともインチキでイカサマで、不可思議な印象。でもね、獄寺さん、知ってますか。彼を見上げる。ハルはそれが、なぜだかぜんぜん嫌じゃあないってことを。

~続く~



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