ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

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そもさんせっぱ、真似事師

8/27の復活祭!改5の新刊四冊を入稿しました!

(通算)獄ハル2冊目です。

獄ハル2

■B6/P376
■獄ハル。短編64話。サイトの獄ハルテキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ★








【そもさんせっぱ、真似事師】

 さあて魂、塊カード。
 水分なんて、地の彼方。
 卵黄塗ったら、二十五分。
 数えた、数えた、アドベント。

 一体全体、こいつはなにをやってやがるんだ、と頬が歪んだ。
 ダークブラウンのフローリング。その上にモスグリーンのカーペット。というかラグ。分厚いのだ。そうだな、十二月だもんな。
 そのまた上にローテーブル。これまたダークブラウン。テーブルの盤はガラスで、綺麗に磨かれている。ガラスの上にはハサミとカッターとカッターシート。一辺が四十センチはある正方形の薄っぺらい箱は放り出されて、ラグの上で傾いた。
 加えて、糊とセロハンテープとホチキス。ぺたん、とソファの手前に座り込んだ姿が、むむむ、と箱の中に入っていたらしい軟プラスチックの塊を手に取る。あれだ、菓子の内箱みたいなやつだ。
 ホワイトの軟プラスチックはなぜだか七列五段で区切られている。表面にはPP。ポリプロピレンだ。ほら、よく乾燥防止に菓子が封されてるのだ。ピー、って剥がすだろ。んで食べんだろ。
 七かける五で三十五の小部屋にはなんらかの菓子が入ってる。ああ、なんでだか入ってない部屋もある。なんでだ、と首を傾げる。オレは小部屋の中に菓子でないものが収まっているのにも気づく。サンタとかトナカイのフィギュアとか。ちゃっちいプラスチックの。
 オレがさすがに「それなんなんだ」と訊ねようとした瞬間に、ピリピリピリ、と眼下の腕がポリプロピレンの封を剥がす。それを剥がし切った頬が満足げ。子供かお前は。二十七だろうが。
 小部屋の一つからチョコレートらしき小さな塊を取り出した指が、ひょい、とリビングの照明にそれを照らす。シルバーリング。幾何学模様と小さなスカルが掘られてる。にや、とリングの所持者は笑った。
 くすくす、と嬉しそうに頬を持ち上げるダークブラウンの髪先が揺れる。ふふふ、と笑う。なんだこいつ、怖いだろ。くすくす、とローテーブルの手前に座り込んだ姿はひたすら笑んでいる。
 見なかったことにしよう、と決意したオレがリビングからそっと抜け出そうとした刹那に、はた、とした。ヤベ、そうだ、靴だった。ひょい、と足を持ち上げてスニーカーを引っ張る。右手に右のスニーカーを持って、左足も持ち上げる。
 左足のスニーカーがどうしてだか引っかかって脱げない。くそ、と舌打ちしそうに指に力を入れる。刹那、バランスを崩しそうになって右手が留守。ガコン、とスニーカーはフローリングに自由落下した。
 ばっ、と派手に振り向いた瞳が恐怖して驚愕する。次に軽い落胆。でも、絶望するつもりがなかったのか、三浦ハル二十七歳はざあっ、と音をさせそうにその腕の中にプラスチックの内箱を隠した。
 しばしの沈黙。ローテーブル前に座り込んだ背中は動かない。無言。ただ、ドキドキ、とオレの鼓動が鳴る。緊張感。それをいいことに、オレはそっと落とした左のスニーカーを拾い上げた。
 そろそろ、とリビングを背にしようとした瞬間に、「……あれ?」ととんでもなく不可思議そうな声が響く。ゆっくりとその上半身を起こした相手が、ひょい、と振り返る。ぱちり、と瞬きをする。どうしてだか目の前に笑顔が広がった。
「やっぱり、小さな隼人さんじゃないですか!」
「……小人みたいに言うな、アホ」
「失礼ですねえ。ハルはアホじゃありません。ええと、じゃあ、隼人くんですか?」
「それ止めろ」
「はあ。じゃあ、獄寺さんで?」
「おう」
「なにしてるんですか。泥棒ですか。不法侵入ですか。ここ、あまりおカネになるものないかと思いますけれど。ああ、ダイナマイトの在庫が欲しいとか? それだったら、向こうにダイナマイト部屋が」
「違げーよ」
「そうですか」
 くすくす、と笑う唇がどうしてか嬉しそうだ。なんか面白いことでもあったか、この瞬間に。言えよ、教えろよ。むっとしてスニーカーを振り回しそうになったら、「あれ、外にいたんですか」と反応する唇が軽く吹き出す。「あんまりランボちゃんとケンカしちゃあ、ダメですよ。彼には十年バズーカがあるんですし」と諭された。るせえ。でも話早いな、こいつ。
 小首を傾げてから手を伸ばした十年後の三浦ハルは、オレからスニーカーを受け取って、ぱたぱた、と進む。リビングを抜けて廊下を通って玄関へ。ついそのままスニーカーを渡してしまい、なにしてんだ、と覗いてみたら、玄関ポーチに並べてやがる。「これでよし」じゃねーだろ。
 やれやれ、とリビングのローテーブルに向き直ったら、ハルが放り出していった内箱がある。なんだ、とラグに埋もれて傾いている外箱を手に取った。
「なんだこれ」
 獄寺隼人十七歳にしてみると、素朴な疑問を発してみる。ぱたぽた、とついさっきと同じ音をさせて、手ぶらになった手のひらが戻ってくる。オレをじっと見返してから、「隼人さんには内緒にしてくださいね」とウインク。ぱちり。無理だろ。オレ隼人さんだしな。まあ、こいつの意図する二十七じゃねーけども。
「アドベントカレンダーです。十二月の頭から、一日に一つずつこの部屋を開けていって、クリスマスを楽しんで待つんです」
 まーたそういう……十年経ってもイベント好きめ、と目を細めた。あれ、でも、と内箱から剥がされてしまったPPを見やる。かさり、とそれは空しそうにラグの真上に鎮座。
「じゃあ、これ剥がしちまったらダメだろ。どーすんだ。外箱に戻しても、小部屋開けてもボロボロ落ちるんじゃねーのか」
「大丈夫です。もう一回貼りますから。ノープロブレムです」
 と心底いい笑顔。なんでまた貼る。つかなんで剥がす。意味が分かんねえ。相変わらずだな、この女。二十七歳だけど、三浦ハル。あ、違げーのか、三浦じゃねえのか。左の薬指にリング。なんとはなしに見なかった振りをした。
「見ててください、獄寺さん」
 とボブの横顔はとんでもなく嬉しそうだ。さらり、と髪先が揺れて頬にかかる。当人は眼下のホワイトの内箱に夢中だ。どうしてだか、その髪をわしゃわしゃとかき回したくなった。なんでだ。触りてえ。
「やっぱり、プレゼントは二十五日ですよね」
 と幸せそうな頬が、「ええと……」と外箱の部屋の数表示を確認する。ああ、普通のカレンダーみたいには数字は並んでない。ランダムだ。バラバラ。ガラスの上にあったシルバーリングを、「ここですね」と該当日の小部屋に設置した。
 うんうん、と頷く唇と頬。それ誰が開けるんだ、と世界の果てまで摩訶不思議だ。もしやこいつは、獄寺隼人二十七歳に、毎日このカラフルビビッドポップな箱を開封させるつもりなんだろうか。そいでもって、二十五日の封を開けた十年後のオレが、「シルバーリング!」と喜ぶところを見たいんだろうか。これ開けねえだろ、十年後のオレ。未来の獄寺隼人、拒否るだろ。なんでって、十七のオレでも拒否るから。
「お目当てのものを入れたら、もう一回PPシートを貼るんです。それで、無事に毎日一部屋ずつ開けられます」
 くすり、と笑うハルは、ふとテーブルの上に遺されているそれに目線を投げる。シルバーリングがもう一つ。幾何学模様に今度もスカル。でも、二十五日の小部屋にあるのとは違うデザインだ。
「決め切れなかったんですよね。どんなガイコツがいいのかって、真の乙女のハルにはぜんぜん分からなくて」
 とかなんとか、いけしゃあしゃあとのたまう。誰が乙女だか。こいつは昔っから乙女がどうの、と主張しやがるが、乙女じゃねーだろ。乙女ってのはもっとこう……清廉で淑やかで敬虔だったりするんじゃねーのか。いや、知らねーけど。オレ、乙女とやらと会ったことねーし。
 清廉でも淑やかでも敬虔でもない瞳が、ぱちり、と瞬きをしてオレを見上げた。「いいこと思いついちゃいました」とかいう時の顔。なんでんなの知ってんだ、オレは。
「獄寺さん、このシルバーリング、どう思います?」
「なにが」
「デザインとして」
「……別に、悪くねえ」
「あれ、お褒めの言葉です」
 くすくす、と繰り返して笑う唇と頬。「獄寺さんの『悪くない』って、結構気に入ってる時なんですよね」とおかしそうな瞳。「うん、そうですね。二十五日の小部屋に二つ入れてしまっても、いいんですけれど……」とオレを見返す。
 ラグに座り込んだハルの背中には、ダークブラウンのローテーブル。ガラスの盤の上には、星型が貼り付いたパイがある。それはもう山ほど。言葉上だけでなく、皿に山になってるし。ミンスパイ。願いをかけるやつ。
 黙ったまま食べると願いが叶う、なんて嘘だ。オレは知ってる。試してみたことある。ただし、ガキの時に。これっぽっちも叶わなかった。第一、んな願いを誰が叶えるんだか分からねえし。オレが信者じゃねーからか、とか思った。まあ、一言で嘘っぱちだ。
 でも、こいつは信じてるんだろうな、となんとなく分かる。感じる。いつだってそうだ。三浦ハルは獄寺隼人の信じないものを信じていて、獄寺隼人は三浦ハルの信じているものを信じていない。宇宙の摂理、ってやつ。
 ただ、最近は、それほど意固地にならなくてもいいんじゃねーのか、とオレに思わせるくらいには、獄寺隼人はなにかに毒されたんだ。

      ◇

「はい、獄寺さん」
「……なんだよ」
「手、出してください」
「なんで」
「どっちがいいですか。右ですか左ですか。薬指のサイズなので、左だと意味深な感じになっちゃうでしょうか。やっぱり右ですかね」
「なんで、って訊いてんだろが」
「よかったら差し上げます。クリスマスプレゼントです、ハルから」
「なんでだ」
「気に入らないデザインじゃないみたいですし。時空の捻れのためとはいえ、せっかく会えましたし。それに、獄寺さんは隼人さんですから」
「……なんだそれ」
「今ハルの前にいるあなたが、十年経つとハルの大好きな隼人さんになる、って分かるからです」
「超能力かよ」
「違います。ただの現実で事実で真実です」
「テレパシーかよ」
「ハル、それは持ってませんよ。テレパシーが使えたら、隼人さんとのやり取りでこんなに苦労しないと思います」
「……苦労、してんのか」
「はい。そりゃあもう、日々難儀です」
「難儀って」
「ええ。隼人さんって面倒なんですもん。強情だし意地っ張りだし、ケンカふっかけてくるしなかなか謝らないし、いつになってもアホって言うし」
「そーかよ」
「はい、そうなんです。でも……」
 そこで言葉を切って、ハルはひょい、とオレの右手を持ち上げる。ローテーブルから取り上げていたシルバーリングは、ハルの右手の薬指でぶら下がっていた。きらり、と銀色の光。
「ハル、そんな隼人さんも結構好きみたいで、困ったものです」
 くすり、と苦笑する唇が苦そうだ。でも辛そうじゃあない。なんでだ。面倒なんだろ。放っといたらいいだろ。なのになんで、とこっちが悔しくなる。オレの右手を持ち上げたハルは、すい、とシルバーリングを薬指にはめてみせた。

~続く~



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