ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

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星空レプリカレプリカ

3/20の復活祭!改4に参加します。

山ハルその1

■B6/P288
■山ハルその1。短編45話。サイトの山ハルテキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ★








【星空レプリカレプリカ】

 季節は変わって、色づいて。
 生きざまなんて、知らないけれど。
 振ってみたのが、サイコロならば。
 すべての力は、この手の中に。

 びゅうん、と並盛の空にだって、風は吹きすさぶ。
 この膝に触れているのはしっかりとした硬さで、それはメタリックなスカイブルーでぴかぴかと光る。延々と伸びている真っ直ぐな線。ブラックで完成されているそれは、ぴいん、と張り巡らされてはハルの膝上五センチあたりだ。
 膝下の綺麗な水色をどこかで見たような、と首を傾げる。水色と銀色の混ざったカラーは決して自然の色ではない。それでも、なんとはなしにそこから銀色を取り去ってしまったら、どこかの誰かさんの炎の色じゃあなかろうか、と不思議になる。
 ガタン、と小さく音を鳴らして世界が動き出す。体の真下にあるのは一辺が十数メートル、一辺が二メートル強の箱型で、きっぱりとハルのことなんて気にしていないのに違いない。
 ここはどこだろう、と明らかに並盛の空を頭上にして思考する。きょろ、と周囲を見回したら、かなり遠くに並盛神社の鳥居がそびえていた。でも、あの朱はどうにもこうにずいぶんと大きそう、と不可思議。並盛神社とは正反対の方向、対角線上に並盛高校。これまた地形と地理的におかしい。神社は高校よりもずっと高い位置にあるべきだし、とはてさて。
 第一、並盛駅がこれっぽっちも見あたらない。あんなに背の高いビルを数年でいくつも建ててみせたのに、と唸りそうになる。
 カタンカタン、と音をさせて動いている並盛線の車両がどうやら直線を走っているのではなく、なにやらぐるぐると回転しているのに気がついた。円周は直径七百メートルくらいだろうか。一キロはなさそう。なぜって、その真ん中に並盛中学校の校舎を内包していたから。
 はひ、さすがにこれは夢ですかね、と瞬きをする。よく遊びに行った懐かしい校舎を横目に見やりながら、三年じゃあ、なにも変わりません、とグレーの壁と屋上のグリーンのフェンスを見つめた。
 永遠を誓ってしまったように延々と回転する車両は、確かに並盛線のもののようだ。数百メートル向こうで回っている車両の上部に、「並盛行き」と表示がある。なんて象徴的だろう、と感嘆の溜息をつきそうになる。
 ぐるぐると同じところを回っているのは、もしや誰かの気持ち。
 一体全体誰のだろう、と悩み抜かなくても、なんともイメージとしてはっきりとした中学校の校舎が鎮座しているので、三浦ハルは苦笑する。
 そうですね、大好きでした、とくすりと笑う。今でも決して嫌いじゃあない、と世界と並盛に宣言してしまったのなら、この身はなんとも不実な発言をすると、並盛線に罰されてしまうだろうか、と摩訶不思議。
 大好きです、ではないところが無性におかしい。そう素直に声にするのは、英語における過去形と現在形の復習をしたいのではない。とんでもなくおかしい。泣き笑いする必要もない。とてつもなくすっきりとした気持ち。そう、晴れ渡る並盛の空みたいな。
 謎ですねえ、と自らの心が不可思議な物体になってしまったようで、車両の屋根に膝立ちのまま、虚空を見上げる。
 真っ暗闇じゃあない。群青と紫と漆黒が混ざり合った中に、きらきらと瞬くそれらが山のよう。一等星も二等星も三等星も、同じようにぴかぴかと光る。もちろんハルは視力はとてもいいんですけれど、と不可思議にも繰り返し同等に光輝く星空を見据えた。明滅する白。点滅する赤と黄。明るい橙。その中で、青は姿を変えずに柔らかくその身を称えるようだ。
 ああ、なんて優しいんだろう、と心に染み渡る青色。
 ゆっくりと膝を伸ばして立ち上がる。速度を上げない並盛線は、ずっと変わらない速さで回転したままだ。あごを持ち上げて宙を見上げたら、きらきらとするその星はハルに目印をくれるみたい。こっちだよ、と迷子の放浪者を導くように瞬いた。
 ギュウン、と回転している並盛線が内側に傾いたら、ぐらりと体躯が揺れる。ただし、上半身と下半身がぐらつくよりも、むしろ気になったのはグレーの裾だった。プリーツの裾は結構短いので、並盛高校の服装検査では注意しなくてはならない。でも、ミニの方が可愛いですから。
 これはきっと永遠の気持ち。たぶん近未来にロングスカートを愛するようになったと仮定しても、今のハルには必要なもの。れっきとした正義として意志として。
 ぐらりと傾いた体躯と繋がっている愛する裾がめくれそうになるので、ばっ、と両手でそれを制した。別段誰もいないんですけれど。
 乙女のたしなみです、とほれぼれとした。世界と並盛にだって誇れそうな感想を胸に抱く。でも、でもですね。ぎゅうん、と唐突に円を描こうとして車体を傾けた車両は思ったよりも角度が大きいらしく、ぐらり、とハルの体はより傾いた。なんてったってこの右手と左手はグレーのプリーツスカートを愛しては触れたままなので、バランスの取りようはない。
 並盛へダイヴ。
 なんて物騒な現実を突きつけられそうになった刹那、現れるんです。ヒーロー登場。ばっ、と真っ直ぐにハルに向けた右腕でこの身を引き寄せては抱き締める、青い炎を燃やすひと!

      ◇

「……あの、ちょっと聞いてもいーかな」
「ああ、なんてことでしょう。夢の中でもグッドタイミングです!」
「ハル」
「はい。ハルは三浦ハルと言います。当年とって十七歳です」
「うん、そだな」
「山本さんは、やっぱりまごうことなき山本武さん十七歳で?」
「違うように見えんのかな」
「とんでもない」
「なら、いーけど」
 とんでもなく苦笑した彼の声がハルの耳元に降る。背中に伸ばされた両腕がぎゅう、とハルを抱き締めるので、見えるのは彼の制服のシャツばかりだ。
 とても背が高い。スラリとした長身はがっしりとはしていないのに、偉く筋力と瞬発力があって、これまでどれだけこの身の窮地を救ってくれたか分からない。
 もしや救世主だったのだろうか、と彼を見上げる。ハルの顔の動きに気づいたのか、大層ぴったりと触れていた彼の両腕がかすかに緩められる。ハルは絶望したりはしないけれど、少しだけ残念な気分にもなった。
 苦そうに並高野球部の期待のエースがハルを睨む。切れ長の目だって細めてみせる。とてつもなく納得がいっていなさそうな表情に、さすがの彼も夢物語みたいなこの状況に唸るのだろうか、と摩訶不思議。
「あのさ、なんで車両に掴まんねーの?」
「はあ、スカートの裾がめくれそうだったもので」
「スカートよっか、ハルのが大事じゃね?」
「そうですかね、スカートも大切なんですが」
「第一、ここ誰もいねーし、誰にも見られねーよ」
「山本さんがいますよ」
「まあ、そだけど」
「はい」
「でも、スカートがめくれるのを気にするよりも、ハルが落ちない方を大事にするべきじゃねーかな」
 やれやれ、といった風に息を吐く。それはうんざりした様子でもなく呆れ返った風情でもない。なんと言ったら伝わるだろう、「仕方がないな」が一番近そう。
 ハルの背中に回していた両腕を(ひいき目でないのなら)名残惜しく離れさせた山本さんは、ちらり、と足元のメタリックスカイブルーの車両の動きを見やる。うーん、と唸りそうにしてから線路の先を見据えて、ひょい、とその左手をハルの腰に添えた。
 支えてもらわなくてはおぼつかないほど、この身はそんなに頼りないだろうか、と感じなくもなかった。でも、彼の手のひらが触れているのは嫌なものではなかったし、むしろ歓迎だったから、ついそのままにしてしまう。
 ハルは大人の女への階段を昇るんです、と凛々しくも笑顔で。
そんな感慨を抱えているハルを面白そうに視界に映した彼は、「ここなんだろ。ハルの夢?」と問うた。
 自分の夢の中で、夢の中にやってきた彼が「ここは夢なのか」と尋ねる不思議をかみしめながら、
「そうみたいです」と返答。「どうして分かったんですか」と続けてみたら、「いや。だって世界観も並盛もめちゃくちゃだし、ハルっぽいかな、って」と心外な声がする。
 ぷう、と頬を膨らませそうになったら、「あ、そうじゃねって。単にオレの想像力じゃあないな、ってだけ」とニカ、と笑う。
 確かに山本さんの夢であるのなら、ここは野球場やグラウンドやバッティングセンターになってしまいそう。
 ふむ、と納得しながら周囲を見渡せば、ぐるりぐるり、と回転している車両がスピードを上げた。ぎゅうん、と速度を上げる銀色で水色の箱は加速していく。
「さっきまで、ずっと同じスピードだったんですけれど」
「ジェットコースター好きって、やっぱハルなんじゃね?」
 ついぞ先刻まではガタンゴトン、とのんびりと走っていたのに。まるで急行か特急みたいな速度にひやりとする。まあ、新幹線よりは遅いみたいだけれど、車両の屋根に乗っている状態では、あまりそれは安心材料じゃあない。
 そっとハルの腰に添えていた左手にしっかりと力を込めた彼が、「危ねーから座って」と促した。「ハルの夢だと、オレじゃあ止めらんねーんだろな」と数メートル先の運転席を睨んでから、すい、と片膝をついてハルと目線を近くにする。
「……ハル、これ止めてみてくんねーかな」
「はひ?」
「止めてみて」
「はあ、じゃあ、運転席に行きますかね」
「そうじゃなくて。止まれ、とか考えてみて」
「はあ」
「効くかもしんねーから。ここがハルの世界なら」
 はたしてそうでしょうか、とハルは心底摩訶不思議。ただ、すでに無敵のイタリアンマフィアの一員でもある雨の守護者に乞われてしまったので、彼の依頼を聞き入れることにした。
 風がびゅうん、と吹きすさぶ。ハルのポニーテールが荒々しい風でなびいて、なんとも台風の手前の舞台にでもにいるみたい。
 ああ、お願いです、止まってください。
 まぶたを伏せてのテレパシー。指も組んでみたりして。
 周囲を見据える。遠くに紅い並盛神社の鳥居。その対角線上に並盛高校がある。野球部のグラウンドも見える。なんだかその大きさが、校舎との対比としておかしいような気がする。とても巨大。
 ぐるぐると周回する線路の内側には並盛中学校。グレーの外壁には変化はない。数年の劣化もなさそう。イメージとしては一緒。同等。なのに。
 ぐんぐんと伸びていく屋上のグリーンのフェンス。金網がずんずんとそびえてはまるで登頂部の見えない塔みたいだ。ガシャンガシャンガシャン、と規則的な音を鳴らして大きく、高くなっていく。
 ああ、あの、これってもしや。
 ぞくり、とした。なんとも不穏当なわくわくした気持ちと一緒に、それはハルの中で広がっていく。膨らんでいくその感情は恐れるべきではなくて、むしろ愛しい魂みたいな塊のよう。
「ハルでもダメか」とわずかに落胆する彼を呆然と見やる。ああ、そんな、本当でしょうか、と心の中に疑問は浮き上がる。
 試してみる価値はありそう、と思考するハルの脳内では、でも、そんなことがあるんでしょうか、と不可思議だって膨張していく。
 ぐるぐるする気持ちを表現するような並盛線。メタリックスカイブルー。その中には象徴的に並盛中学校。巨大な野球部のグラウンド。ぐんぐんと伸びていく、グリーンの屋上フェンス。
 ああもうそんなの、ハルの世界じゃない。ハルの夢じゃない。誓って絶対に、誰かさんのものじゃあないですか!

      ◇

「山本さん!」
「ん、どした。なんか思いついた?」
「ここ、山本さんの世界です、夢です」
「え、なんで」
「あそこ見てください。野球部のグラウンドだけ、とんでもなく大きい」
「あり、本当」
「それから、並中の屋上フェンス。グリーンのフェンスがどんどん高くなってるんです、異常なほどに」
「お、なんだあれ、すごいのな」
「もう絶対に飛び降りない、間違えない、とか考えてませんでした? あれから、屋上ダイブからずっと」
「うーん、そっかも」
「それから、並盛線がずっとぐるぐる回ってます、止まらずに」
「うん」
「終着駅が、到着先がないんです、並中の周りばかりで」
「うん?」
「山本さんて」
 少しだけ言い淀む。自惚れかもしれない。言われたことなんてなかった。でも、なんとはなしにそうなのかな、と思うこともあった。過去の経験則。彼はこれまでずっと、「前から」としか頑なに言葉にしなかったけれど。ねえ、教えてください、青い炎を燃やすひと。
「山本さんて、いつからハルが好きでしたか?」
 端正な顔が息を飲む。わずかに引き釣る頬に、ああ、やっぱり、と確信をする。所在なげにゆらゆらとした視線がなにかを覚悟したようにハルを見据えて、必死でニカ、と笑った。
「昔っから、中一の時から」
 ぐるぐると回転する並盛線。終わりのない誰かの気持ち。ハルがずっと違うひとを見ていた間も、ぐるぐると回っていたのかもしれない気持ち。
「これ、言いたくなかったんだけどな」
 苦笑する頬。皮肉げというよりも、まいった、と言わんばかりの表情で、「だってさ、相手にしてくんねーと思うじゃん。あんなの傍で見てたら」と音にする。
「だから、待ってたんだ」とかすかに寂しそうな声で発する彼は、「まあ、言っちまって断られて、気まずくなんのがやだったのかも」と続けた。「どっちにしろ、かっこ悪いか」とまぶたを伏せて唸る彼は、どうにもこうにも飄々としていた。
 すい、と右手を伸ばして彼の頬に触れる。軽い音で唸ってまぶたを伏せていた彼がそれを持ち上げて、所在なげに目線を揺らした。ひょい、と車両の屋根に座り込んでいた上半身を持ち上げる。そのまま彼に唇を触れさせたら、申し訳なさそうに応える彼が、「なんだろ、憐れみとか、同情のキス?」と尋ねた。
「いいえ、感謝のキスです」
 そうと音にして背の高いひとを見上げれば、なんとも意外そうな表情を増やしては皮肉げな顔を取り去った彼は、どうにもこうにもおかしそうに吹き出した。
「世界っておかしいのな」と小さくつぶやいて、なにかに納得した風の彼は、もう一度ハルに口づける。もう申し訳なさそうではない普段の唇が持ち上がっては奇妙に嬉しそうなので、くすり、と笑いそうになった。
 柔らかく触れていたそれが深く口づける。時間をかけてだんだんと飲み込んで飲み込まれて、どちらがどちらなのだか分からなくなりそう。気持ちよさにこの身を預けてしまいそうになった瞬間に、ガクン、と足元が揺れてはた、とした。
 ぴったりとハルに触れていた照れくさそうな口元が離れていって、
「おし、んじゃ止めてみっかな。ここがオレの夢だっていうなら」
 とわずかに紅潮した頬を振り払ってはニカ、と笑うのだ。

~続く~





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