ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

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そこそこ希望、ポーカーフェイス

獄ハル

■A6/116P
■獄ハル(中二)。短編15話。サイトの獄ハルテキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ。









【そこそこ希望、ポーカーフェイス】

 カッコ付けても、ああ無情。
 華麗な裾も、効果なし。
 抜群なそれ、いつの日か。
 始まるべきが、始まりの日だ。

 世界と並盛町は、宇宙人に征服されたのかも知れねえ。
 そうと考える。偉く懸念する。オレはさしてポジティブでもネガティブでもねえ(普通だ)から、余り心配性な訳もない。
 ボンゴレファミリー嵐の守護者は臆病者でもなかったが、この所そんな思考が脳内を席巻する。イタリアの空気を忘れてしまって、この肺が安穏とした空間を享受しているからだろうか。
 でも、日本から離れる訳にもいかねえし、と唸る。あの人がいるからだ。獄寺隼人は別段イタリアを愛しているのでもなかったが、このままだと日本は危ねえかも知れない。
 オレは、常日頃はそんな感情に囚われていもいなかった。オレがそれに捕まってしまうのは、決まって今日みたいな状況が出揃った瞬間だ。
 訳が分からねえ、とまず焦る。冷や汗。じっと不快を十秒をそのまま堪能して、途端に呆れ返る。頬が引きつる。夢じゃないのかと疑う。それでも、オレのわずかな希望を打ち砕く現実。
 対峙しなくちゃならねえ。退治かも知れねえ。オレが担っているのは世界のマフィアとの闘いのはずだった。妖怪討伐じゃあねえ。それが何でこんな事に。
 未確認飛行物体とUMAは歓迎だ。諸手を上げて出迎えるし、会話も交渉も接待も厭わない。広大な宇宙の神秘は守られるべきで、尊重されるべきだから。
 獄寺隼人が排除したいのは、それ以外の生物だった。
 オレの目の前に展開されるのは、特別ミュージカルをするための舞台じゃあないはず。ごしごし、と手の甲でまぶたを擦る。消えない。じゃあ、これは白昼夢か悪夢ってヤツだ。
 オレがガチャ、と軋んだ鍵を縦から横に回して回転させたドアノブは、異世界に繋がる扉じゃあなかった。大抵の場合、この行動の後には薄いグレーのコンクリートの床が広がる。触るとざらざらとしたあれ。少しだけ、砂が混ざってる。屋上当番、ちゃんと掃除しとけ。
 どうしてだか、オレの希望とは裏腹に舞台は整えられたのか、並盛中学校の屋上に広げられるレジャーシート。花見の時に場所取りで繰り広げられる、センスも趣味もないブルーシートじゃあねえ。ただし、これが趣味が良いとはさすがのオレも言い難い。
 ホワイトにブルーとグリーンのストライプ。交互にだ。ストライプの線は細め。薄っぺらくはない、結構分厚くてしっかりとしていそうな敷物。すぐ隣にイエローとオレンジのチェック。やっぱりホワイトの地に細めに交差する。ピクニック会場かどこかか、ここは。中学校じゃあなかったか。並中はどこに消え失せた。
 一辺が二メートルはありそうな代物の四隅を、カラフルなバケツが並んでいる。ピンクとブルーと、グリーンとオレンジ。イエローもある。どれもデコボコしてやがる。形としては、まあ、一般的なバケツ型。デコボコしているって事は、多分に押し込んで畳めるタイプなんだろう。
 って、そうじゃねえ。
 高さが三十センチあたりのバケツは、さっぱりと空じゃあなかった。わさわさとそこに活けられているそれ。大群だ。水色で青で紫で、ピンクで黄緑で白い花弁の山。葉はどれも緑。やたらめったら青々してく瑞々しい。手入れに関しては悪くねえ。認める。しかし、問題はそこじゃあねえ。
 カラフルなバケツに長めの茎を保って入れられているのは、紫陽花の大群だ。それこそ山ほど。カラフルなバケツにカラフルな紫陽花。どうやら考えられているのか、ピンクのバケツにピンクの紫陽花は活けられていない。ブルーのバケツに青の紫陽花も活けられていない。バランスってか。
 これまたカラフルなレジャーシートに何らかの容器を並べている横顔が、並中屋上の入口を見やる。目が合う。オレは愕然とする。呆然とする。めまいもする。恐怖。貧血でも起こしてぶっ倒れそうだ。
 ぱちり、と不思議そうにまばたきをする猫目。無駄にデカい。ダークブラウンのその光彩は心底不可思議を示していたが、ふい、と自然に目線を動かした。その動作でポニーテールの髪先が揺れる。
 てめえ、と声が出掛かる。泣く子も黙るボンゴレファミリー嵐の守護者には興味がないってか。いや、興味を持たれても困るが。正直御免被るぜ。だから、まあ、それはそれでいい。
 問題は、そうだ。
 てきぱきとカラフルな容器を並べる、楽しそうな頬。パステルカラーのランチボックス、クリアで大きめのフォークとスプーン、キュッ、と音がして開放されそうなステンレスボトルはダークブラウンとホワイトとクリームイエロー。
 何で飲み物が三つもあるんだ、何人分だよ、とひん曲がってしまいそうなオレの唇には無関心。獄寺隼人の数メートル先にいる宇宙人。UMA好きとしてはコンタクトを取らねばならない。そうだ、これは人類の第一歩だ、とオレは自分自身を納得させる。
 おい、と必死で作った低い声音で、目の前の地球人に扮した地球外生命体に交渉を開始するんだ。ミッションスタートだ。これは人類と科学の発展に貢献する行為なんだぜ。ああ、偉業だ。

      ◇

「おい、宇宙人! おい、っつってんだろ!」
「……誰ですか、それ」
「お前以外、ここにいねえだろうが」
「本当に、問答無用で失礼なひとですね」
「失礼なのはどっちだ。並中の屋上に無礼な事してんじゃねえ」
「なにが無礼なんですか?」
「地球人に扮した宇宙人が、他校生の分際で不法侵入、あまつさえ物品散乱の刑だ」
「言っている意味が分かりません」
「分かれ、理解しろ、思考しろ、空っぽの頭たまには使ってみせろ」
「こんにちは、獄寺さん」
「今、挨拶かよ!」
「いえ、さっきしていなかったな、と思いましたので」
「……おう」
「こんにちは」
「おう」
「まだ、四時限目ですけど。なにしてるんですか、サボリですか」と小さく台詞を続ける。コトン、とレジャーシートに乗せるランチボックスはパステルグリーン。蓋をしたままのそれの中に、サンドイッチらしき物体。毒物かも知れねえ。エマージェンシーだぜ。
「その台詞、そのまま返す」と言葉を発しようとした刹那に気づく。緑中学校二年A組の宇宙人の後方に、リアカー。斜めに傾けられたタイヤと本体を支えるパーツはレッド。何だこれ、と目をむいた。
 並中にはエレベーターはない。加えて、校舎と屋上が繋がっているドアはさっきオレが開放した扉のみだ。扉は一枚で、両開きでもなく人間が一人通るのが一般的なサイズだった。リアカーは通れねえ。何をどうやって持ち込んだ、と高速で思考する。もしや、並中屋上にはオレが既知でない通路があり、そこからこのデカい物体を搬入したのか。
 でも、何もねえし、と屋上をぐるり、と取り囲んでいるフェンスを見やる。あのバカが飛び降りてから頑丈に、背が高くなった。昇るのも面倒なくらいだ。クレーン車で持ち上げるしか方法がなさそうだが、と頬が引き釣る。でも、こいつにはそんな事をするメリットがない。金が掛かるだけだ。訳が分からねえ。
 むっ、としたままに不可思議を噛み締める。しかし。こいつは、アホ女こと三浦ハル。何をし出かすかは皆目見当がつかねえ。獄寺隼人の推察がどうだとかじゃあねえ、こいつが宇宙人だからだ、摩訶不思議物体。刹那、オレははた、とした。
 もしかして、こいつは宇宙人じゃあなくて、魔女じゃあねえのか。
 ゴクリ、とつばを飲み込む。魔法。アホ女だし、いかにも使いそうだ。頻繁に並中に進入している他校生。並中ののほほんとした空気と雰囲気と警備がザルなんだと思ってたが、むしろそれは欺かれてるのじゃあないのか。かいくぐっているのじゃあないのか。全てが魔法で。
 それならば納得がいく。腑に落ちる。唐突に現れる、一人では、手持ちで運ぶには難しい量のアイテム。屋上のドアを通らないはずのリアカー。しょっちゅう、所属している緑中学校ではなく並盛中学校にいる三浦ハル。

~続く~



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