ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

Entries

ハッピーエンドは、もういらない

コロラル

■A6/100P
■コロラル。短編11話。サイトのコロラルテキストを加筆・修正したものです。書き下ろしあり。
■サイトのテキストは削除済みです。
■本文サンプルは、追記よりどうぞ。










【ハッピーエンドは、もういらない】

 届いて、届けた、この想い。
 消えてなくなれ、魔法の呪文。
 叶えたのなら、道しるべ。
 境界を越え、彼方まで。

 バサリ、と両手に抱える程の束を世界にかざすのは、晴の孫弟子だ。
「極限にめでたい」と今にも震えそうな拳。それが触れるべきなのはボクシンググローブか晴のボックス兵器のリングではなかろうか、と疑問になる。
 イエローとオレンジが中心の花弁が大きな円となり、とてもまばゆい。柔らかい色合いのそれにグリーンの葉が周囲を覆うバランスが素晴らしく、これをこの男が指定したのであればかなりのセンスが伺える。まあ、店員の手柄なのだろうが、とごく自然に頷く。オレは、その花束が自らへの贈答だとは考えていなかったため、のん気な心でその花弁を視界に映していた。
 しかし、あろう事か、「おめでとう、ラル・ミルチ。師匠をよろしく」と晴れ晴れしい笑顔でその塊をこの手に渡す笹川了平。顔面が凝固した。
「師匠は一人でも楽しく生きていけるのであろうが、ラル・ミルチは少し危ういからな。良かった」などと可笑しな科白を続けるオレの孫弟子は、何を言っているのだろう。「うむうむ」と繰り返すボンゴレファミリー晴の守護者は全く持って大真面目な性格をしているので、客観的にふざけているとは考え難い。
 策を巡らすタイプでもないのを既知であるオレは、呆然として黄色と橙色と緑の束を受け取ってしまった。
「あ、綺麗。了平にしてはやるじゃない」と嬉しそうな頬。ボンゴレファミリー日本支部のオペレーションルームでノートPCを左手で支え、右手でキーボードを叩いていた黒川花が寄ってくる。
 オレの座っているミーティングテーブルの横から、鮮やかで美しい形の束の中身を覗いた黒髪は、今日も流れるウェーブを作る。「花なんて柄じゃないのに、どれだけ極限だったの」と笑う唇は皮肉でもなく吹き出した。それにしても、ボンゴレが誇るオペレーターにしては、今日の花は言語中枢が可笑しい。
「祝いと言えば花であろう」と堂々と胸を張る笹川了平と、「うん、そうね。単純だけど効果あるね」と面白そうに頬を持ち上げる黒川花は幼馴染みらしい。互いに相手に対して遠慮がない。戸惑いや懸念もない。自然と互いを信用しているのであろう、と言うのは良く理解できるのであるが。
 にこやかに談笑するボンゴレファミリーの構成員をライトブラウンのテーブルに付いたまま見上げ、「この花束は花宛ではないのか」と恐る恐る二人に問うた。花(人名)と花束。ややこしいな。
 オレは正直、「おお、そうであった、済まん済まん」と言う返答を期待していた。
 ぽかん、とした晴の守護者と、ぱちり、と瞬きをしたその幼馴染みはそれはそれは不思議そうにボンゴレファミリー門外顧問所属のオレを見据える。多分に数秒である。じりじりと過ぎていく時間がとんでもなく長く感じてもどかしく、誰か助けてくれ、という気分になった。
 一方的にオレの中にだけ張り詰めていた緊張を、笹川了平の笑い声がぶち破った。こいつが破るべきなのは、ファミリーの困難と壁ではないのだろうか。それが晴の守護者たる物の使命なのではなかろうか、と頬が歪む。
「師匠の師匠は相変わらず頓狂だな。冗談ではないぞ。真実にラル・ミルチに手渡したい」ときっぱりと断言する唇。次の瞬間。はた、とした瞳が僅かに不安そうになり、「もしや、気に入らなかったろうか」と眼下の束に目線をやった。「俺もだな、確かに師匠の師匠はもっと青い花の方が好きなのでは、似合うのではと考えたのだが、店で祝いであるのなら青は避けた方が無難だと言われてな」と口述。
「いや、これは綺麗だが」と声にしようとした刹那、「やはり青にして来る、少し待っていてくれ!」とブラックのスーツの長身はオペレーションルームを飛び出して行った。そうではない、話を聴いてくれ、ラル・ミルチの孫弟子よ。
 プシュウ、とあえなく閉じてしまったドアを斜めに見やり、「了平がごめん。うるさくて話聴かないやつだけど、悪気はないから」と申し訳なさそうな花。「いや、気にしていない。これは綺麗だしな」と晴の守護者とそっくりな色の束を表現したら、花は微かにほっ、と息を吐く。
「よかった」と心底安心した風の唇が、「じゃあ、これ一緒に見ようよ、ラル」と即座に笑顔になって、ドサドサドサ、とミーティングテーブルに分厚いそれを積み上げた。
 一冊が十センチはありそうな厚さの雑誌をパラパラと捲り、「どれがいいかな、ラルは美人だし綺麗だしスタイルもいいから、何でも似合っちゃうよね」と心底嬉しそうな横顔。その指先が触れるページには、ホワイトの裾が長いドレスばかりがひしめいている。
「背高いしやっぱりマーメイドかな。背中ばっくり開いてて見せちゃうのも素敵そう」とうっとりとした瞳に、いや、ちょっと待ってくれ、と懇願したい。「あたしが子供だったら、絶対にベール持つ係やらせてもらっちゃうのに。羨ましい、やりたかった」と幸せそうな口調がオレをなぶる。頼む、待ってくれ、オペレーションルームの守護者嬢よ。
 顔面と胸中がとてつもなく強ばっているオレに気付いたのか、「あれ、ドレスじゃなくて和装なの? でも、ラルだったら絶対にドレスの方が」ときょとんとする花がいる。
「いや、そうじゃあないが」と言い淀めば、「そうだよね、ドレスだよね」と嬉々としている姿。クールでドライなリアリストだと思っていたが、実はなかなかロマンチストだったか、とオレは少しだけ恐怖した。
 ああ、しかし、花位の年齢であれば、こんな反応が普通なのかも知れない、と頷けない事もない。はあ、とこっそりとひっそりと息を吐く。オレが頷けないのは他の事だった。「スリムな形のに、後ろの裾だけめちゃくちゃ長くするのもいいよね」と夢中でページを捲る指には何の罪もないのだろう。
 花束にドレス。加えて、めでたくて祝いでおめでとう。更に、一人で楽しく生きていけるであろう晴の守護者の師匠。そして、一人では楽しく生きていけなさそうなラル・ミルチと来た。
 ぶるぶると全身が震えそうになる。歓喜ではなく怒りに依ってた。無論、笹川了平と黒川花に対してではない。この二人には罪はないし、ラル・ミルチからも、他の誰からも罰される事はないだろう。罰されるべきなのは、あの男だ。
「ねえ、ラルはどれが好き?」とドレスのページから顔を上げる罪のない科白。真っ直ぐな目線の花の目の前でバッ、と立ち上がり、「済まん、後で見る」と宣言をした。
「うん、分かった」と嬉しそうな頬には変化がなく、グオン、と閉ざされたオペレーションルームのドアの外側の通路で、オレはへなへなと座り込みそうになる。しかし、こんな所でのん気に座っている場合ではない。断罪しなくては、あの男を。悪魔を。罪を償わせてやる、とオレは心に誓ったのだ。

      ◇

「コロネロ、貴様!」
「お、どうした、半日ぶりだな」
「お前はその半日で何をやった、何を仕出かした、ふざけるな!」
「まあ、落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるか、いっそ拷問だ!」
「あれ、拷問受けたことあったのか」
「ある訳がなかろう。捕まる様なヘマはしない、このラル・ミルチは!」
「そりゃあ、そうだろうな」
「話をそらすな!」
「別に、そらしちゃあいないぜ」
「何をやった。直ぐ様全てを吐け、供述しろ。言い訳はあの世で聞く」
「物騒だな、コラ」
「どっちが物騒だ。情報の漏洩と密航には、死あるのみだぞ!」
「やっぱり物騒だ」
「煩い、そう言う話ではない!」
「じゃあ、どういう話なんだ」
「それと、ドアを壊すなよ。俺がボンゴレに文句言われるだろ。第一、防炎で防弾で滅法分厚くて偉い頑丈な造りのはずなのに、一撃で壊すのかよ、その脚は。相変わらずじゃじゃ馬だな」と笑う。
 我慢が限界に達し、とうとうぶるぶると震える拳をぐっ、と握り締める。ボンゴレファミリー日本支部のゲストルームの一室であるこの部屋のドアは、思い切り蹴破った。弁償は目の前の悪魔がすれば良いのだ。
「了平と花が可笑しな事を言っていたが、お前の仕業だろう」と問い詰めようとした刹那に気付く。コロネロが滞在しているゲストルームは決して狭い空間ではないのだが、その床がかなり埋まっている。大きい箱も小さな箱もしっかりとしたペーパーバッグもそれぞれが綺麗にラッピングされ、加えてその包装は解かれていた。
 それらが入っていたのか、放り出されたダンボール箱は畳まれもせずに開封された箱の形状のまま、眼下にある。「これは一体なんだ、お前は一介のゲストだろう。余りボンゴレ内を散らかすな」と頬が歪んだ。
「あんたにも関係あるものだぜ」とニヤリ、と持ち上がる口端。恐怖とともにムシズが走る。ああ、世界と並盛はこれ程までに嘆きで満ちていたろうか。
「コロネロ、情報を流出しただろう」
「いや、そんな危ない橋は渡っちゃあいない」
「では、なぜ了平と花が知っている。この包みは何だ。このプレゼントはどうした。祝いの品とやらじゃあないのか」
「当たりだ。山ほど来てるぜ、見るか?」
「見る訳がない」
「何だよ。すごいスピードで海も渡ってきたのもあるのに」
「渡すな、輸送費の無駄だ」
「何だよ。みんなの気持ちだろ」
「煩い、黙れ、ふざけるな、金輪際何もするな、動くな、いっそ消滅しろ」
「…………」
「何を沈黙している。己の悪行が身に沁みたか」
「いや、あんたが黙ってろって」
「馬鹿者、言葉のアヤだろうが!」
 はああ、と地の底まで届きそうな息を吐く。「何をやってしまったのか白状しろ、ただし簡潔に」と息も絶え絶えに訴えた。ぱちり、と大層不思議そうな蒼い瞳はまばたきをして、変わらない色でオレを見上げる。ラル・ミルチはその色を好んでいたから、正直、先刻の晴の守護者の選択は正しかった。後で了平を誉めておこう。こいつを叩き潰した後で。
「ボンゴレの日本支部の平常回線を使って通知を出した。ラル・ミルチが観念したってな」とそれはそれは楽しげな科白に顔面蒼白になる。誇らしげで小さな顔面を打ち抜こうと、バアッ、と振り抜いた右腕は宙を切る。スタン、と雨のアルコバレーノはオレの腕に飛び乗った。

~続く~



スポンサーサイト

右サイドメニュー