ハニー★カム:日誌

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「おさみこハッピーステップ~変幻自在で、ホープはフォーク~」

眼鏡篇も寝室事件篇も、素敵に刷り上がってきました……!

ハッピーステップ篇

■「OSAMIKO HAPPYSTEP~変幻自在で、ホープはフォーク~」
A5/54P
表紙イラスト:【MATHEMATICA】 西野ムギ様

■砂木沼コーチと瞳子さんが延々と寝室にいる話。

■本文サンプルは、続きよりどうぞ。









~「おさみこハッピーステップ」1話より~

【月宵羽音ヴィーナス】

 飾りを付けない、心を一つ。
 キラリ、と光る、科白も二つ。
 告白しても、下克上。
 舞って踊って、盛り上がれ。

 パラリ、と広げるA3の用紙がまるで広大な地図の様で、はてさて、と私は瞬きをした。

 何をしているんですか? と世界と日本と宇宙と稲妻町が席巻されてしまいそうな不可思議で彼女に問うて見れば、作戦を考えているのよ、と吉良瞳子の弁。
 サラリ、と僅かに内巻きの青い長い髪が彼女の肩と首元に零れては頬に掛かるので、その髪を掌で掻き上げて厚紙に俯いているその瞳を上向かせたくなった。
 はあ、何のですか、と宇宙に向かって走り出しそうな謎を抱えて訊ねてしまえば、聖堂山の試合、と素っ気なく答えた指先がキュッ、と閉じられていたペンのキャップを解放する。
 クリーム色の台紙に綺麗なグリーンで印刷されているサッカーのフィールドが彼女と砂木沼治の目線を遮る様に広げられて、彼女の左手はクルリ、とホワイトのくっきりとはっきりとした線を引いた。
 バサリ、と緑色のフィールドとその七分袖の右手を吉良邸の宙にかざした彼女に、あの、コーチは私なんですがね、と男の物だけではない、現実と事実と真実とを訴える。
 良いじゃない、最近退屈なんだもの、シミュレーションよ、とあっけらかんとして返答をする彼女は、これっぽっちも私の姿をその水晶体と光彩に映していないので、吉良瞳子が愛しているのは漆黒と白色で完成されている球体を用いて行う球技の試合場であるのだ、と知った。
 まあ、それは私も大層好んでいる場所でもあるのだが、と思考しながらも微かに眉間に眉を寄せては、今はそう言う時間ですかね、と彼女曰くブラックの波と似ているらしいうねうねとした流れを肩に被せて音にする。
 だって、腕が鈍ったら嫌じゃない、と素知らぬ振りをして淡々と言葉にする彼女は、私の隣でうつ伏せては眼下のフィールド図とホワイトのペンとばかり仲睦まじいので、はあ、相変わらず浪漫がないんですね、と本音で持って発してしまった。
 男の言葉は一つだって彼女に感銘や感嘆を与えないらしかったけれど、吉良邸の彼女の自室でうつ伏せになっては、そのほっそりとした両腕で上半身を支える吉良瞳子の胸元が妙に開いている気がして、ドキリ、と鼓動が鳴る。

 クルリ、と彼女の胸で弧を描くそれはワンピース型で、柔らかい体躯に寄り添っていた。

 特別格別、彼女は自らの服装で男をどうこうしようと言う意図と意志がないので、多分に単純に純粋にデザインの問題なのだろう、と私は素直に頷くのだ。
 然し、白い胸元と鎖骨の間辺りで綺麗な半円が彼女の肌を切り取っては浮かび上がらせるので、つい、そこにばかり目が行ってしまいそうになるのは男の滑稽さだろうか、と首を傾げる。
 彼女は、七分袖の丸い襟ぐりのワンピース型のそれの肩にカーディガンも羽織っているので、カーディガンには袖を通してはいないのだし、果たして暑いのと寒いのとどちらなのだろう、ととんと摩訶不思議になった。
 四月上旬の稲妻町の夜半が未だに冷え込む日があり、多少なりとも肌寒いのであれば、きっちりとしっかりと襟とボタンのあるパジャマを着用したら良いのではなかろうか、と言う気分にもなる。
 彼女の肩に乗せられただけのカーディガンはこれと言って吉良瞳子に反発心を持っていないらしく、ピタリ、とその体躯に沿っては流れる様に形を保っているので、余計に彼女が柔らかく世界に存在をする、と主張されている気持ちになるのだ。
 不埒な胸中で吉良瞳子の自室の天井を見やっているのは私だけらしく、彼女は印象として鼻歌でも歌いそうに(吉良瞳子はそれをしないのだが)機嫌良く、クルリ、とペンを綺麗な木目の天井の真下で回転させる。
 まあ、毎晩の如くに同じ程度の距離で傍にいるのであれば、そんな気分ではない深夜もあるのかも知れなかったが、どうにもこうにも欲しているのが男ばかりの様な感触があるので、むむむむ、と唸りそうになった。
 この身に興味がないのだろうか、と宇宙に飛び出してしまいそうな心根で持って彼女を見やれば、スイ、と起き上がった上半身がパラリ、とグリーンのフィールドを両腕で広げては、なかなかに満足そうな頬をする。
 うん、と僅かに持ち上がった頬が嬉しそうであったので、別段その笑顔は砂木沼治に向けられた物ではなかったけれど、ドキリ、ととんでもなく鼓動が忙しなくなった。
 瞳子さん、と高鳴る心臓のままに彼女の名を告げようとした刹那に、バサバサバサ、とグリーンのフィールド図を私の顔面に被せてはこの胸元に広げた彼女が、キュキュキュ、と可愛らしい音をさせながらホワイトのペンを走らせるので、ああ、と男は。

 ギュウ、とホワイトのペンごと彼女の左手を握り締めてしまい、その体温にキシリ、と胸が疼くのだ。

 ***

「…………」
「…………」
「瞳子さん!」
「何?」
「…………」
「…………」
「好きです」
「あら、知っているわよ、有難う」
「…………」
「…………」
「全く、相変わらずに釣れませんね」
「そうかしら」
「…………」
「…………」
「そうですよ」
「あの、砂木沼君、放してくれない?」
「…………」
「…………」
「はい?」
「手」
「…………」
「…………」
「え」
「今ね、良い所なのよ、もう少しで作戦立案が」
「…………」
「…………」
「後にしてくれませんか」
「駄目」
「…………」
「…………」
「ああ、いつになっても容赦がないですね」
「砂木沼君こそ、後にしたら?」
「…………」
「…………」
「嫌です」
「そうね、もう十分くれないかしら、その位で終わると思うのよね」
「…………」
「…………」
「嫌です」
「もう、子供ねえ」
「…………」
「…………」
 お日さま園の男の子とこれっぽっちも変わらないじゃない、皆、後五分が待てなくて、無理とか駄目とか散々言うのよね、と大層呆れ返っている彼女に合わせて起き上がってから、ギリ、とその瞳を睨み据えた。
 ひょっとして、男の子っていくつになっても同じなのかしら、ととてつもない摩訶不思議を持って目の前の青年を見詰めている彼女が、パチリ、と瞬きをするので、もしや比較対象は五歳と二十五歳なのだろうか、と問えなくなる。
 彼女の疑問と質問と設問には知らん振りをして、ヒョイ、と吉良瞳子に頬と唇を寄せてしまったら、不可思議そうな光彩がやれやれ、と言わんばかりの色に変化をしたので、無性に悔しくなった。
 そのまま、彼女の首元と耳元に顔を埋めれば、もう、と科白を吐き出す彼女の息が甘い音階で私の鼓膜を叩くので、バサリ、と私の後頭部の辺りで広げられた厚紙の音が信じられなくなる。
 男の頭部を抱き締める振りをして吉良邸の自室の宙にクリーム色の台紙をかざす彼女は、キュッ、とその左手でホワイトのペンを動かしているのだ。

「…………」
「…………」
「ねえ、砂木沼君、後五分くれない?」
「嫌ですね」
「…………」
「…………」
「本当に、もう少しだから」
「否でしょうに」
「…………」
「…………」
「貴方は、我慢を覚えたら良いと思うわ」
「その科白、丸ごと貴女に返しますよ」
「…………」
「…………」
「ねえ」
「却下します」
「…………」
「…………」
「お願い」
「断ります」
「…………」
「…………」
「五分待ってくれたら、砂木沼君の好きにして良いから」
「え」
「…………」
「…………」
「どう?」
「あの」
「…………」
「…………」
「うん?」
「好きにして良い、は、どの位好きにして構わないんですかね」
「…………」
「…………」
「ええと、そうねえ、じゃあ」
「はい」
「…………」
「…………」
「全部」
「はい!?」
「…………」
「…………」
 駄目かしら、と私の頭を彼女の腕が抱えたままに、キュキュ、とホワイトのペンは動きを止めずに吉良邸の宙で踊って、彼女の腕は柔らかく僅かに動く。
 全部、とまるでチカチカ、と明るく点滅をする何かが私の瞼に張り付いている様で、砂木沼君、とこの身を呼ぶ彼女のそれがどうにもこうにも愛しそうなので、これは錯覚か幻聴か何かだろうか、と摩訶不思議になった。
 あの、正直な所、もうこのままに倒れ込んでしまいたい気持ちで一杯ですが、と必死の胸中で彼女の柔らかい体躯から己を微かに引き剥がしたら、ジッ、と真っ直ぐに私を見上げる瞳があるので、チカチカ、と繰り返して星の如くのそれが私の瞼で煌めく。
 わ、分かりました、といっそ喉が乾きそうに宣言をしてしまったら、うん、有難う、と彼女がその体躯とそっくりに柔らかく笑んで見せるので、ドキリ、と滑稽な男の鼓動は跳ねて、近未来に。

 二十年前には五歳であった青年は、もう三十分は経ちましたがね! と虚空に向かって絶叫をするのだ。

(もう、構えていない男は嫌われるわよ、女に、とフィールドを愛している彼女は取り合わないのだけれど)

~以下、「おさみこハッピーステップ」に続く~



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