ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

Entries

「おさみこ、ときどきネットワーク~りゅうせいてっきょう24じ~」

春コミ合わせの流星鉄橋篇が刷り上がってきました……!

入稿済

■「おさみこ、ときどきネットワーク~りゅうせいてっきょう24じ~」
A5/126P
表紙イラスト:【MATHEMATICA】 西野ムギ様

■オサーム様と瞳子監督と砂木沼コーチと瞳子さんが鉄橋で遭遇する、ちょっと異空間な話。

■本文サンプルは、続きよりどうぞ。




~「おさみこ、ときどきネットワーク」1話~2話より~


【0100/四連ブリッジ討議場】

 願いましては、と弾いたら。
 カチリ、と光って、瞬くそれは。
 パカリ、と開いた鍵と扉で。
 魔法の呪文が、恋を宣言。

 鉄橋にバッ、と右腕を広げて立ち塞がり、勝負です! と叫びを上げれば、彼女はパチリ、と瞬きをする。

 それぞれが青と水色と白とで完成している鉄橋が三重になって、特別格別、雷雨や豪雨で溢れ返っている訳でもない河川の真上を覆っていた。
 隣り合わせになっている上向きと下向きの三角形が川の幅以上に延々と繰り返して繰り広げられては連なって、正確に正しくも同じサイズと形状とで出来上がっている訳ではないその鉄橋達は、微妙にその存在を合わせずに、世界と日本と宇宙と稲妻町に存在をする。
 スカイブルーとライトブルーとホワイトの鉄骨の向こう側で、十数メートルの距離を取って更にクリーム色の鉄橋が建設されていたので、現実として事実として真実として、三角形は四色が微妙に重なっては連なっているのだ。
 なかなかに摩訶不思議な光景で景観だ、と多少なりとも首を傾げそうになる砂木沼治は、ヒラリ、と瞼の真上に掌をかざしてしまい、はてさて、と不可思議を抱えそうになる。
 トン、と三つの鉄橋の中央である水色の鉄橋が従えている赤茶けた線路に佇めば、私の頭上と周囲全てを群青と灰色と薄紫色が席巻していた。
 ああ、宇宙は真っ暗闇とはならないのだな、と深夜の稲妻町と雷門の空を見上げる私の視界の中には、キラリ、と流星かて降り注ぎそうだ。
 ふむ、と真夜中の一時過ぎの空間で胸の手前で両腕を組んでしまったら、三連の鉄橋の向こう側で、クリーム色の鉄橋をシャラララ、とでも煌めいた音を鳴らしそうに車両が通り過ぎて行く。
 インディゴとグレーとパープルの空気の中をたゆたう様に私の視界を右から左へと滑走する銀色の車両は、まるで宇宙に永遠を誓いでもしてしまったかの如くに連なって、ピカリ、と車中の照明で宙を照らした。
 ピカピカ、キラキラ、と点滅して、何とはなしに夢想じみた明るさを称えた十両編成のそれがクリーム色の鉄橋を通り過ぎてしまえば、フワリ、と雷門の空には静けさが舞い降りる。
 水色の鉄橋を構成している三角形の一つから隣の鉄橋を見やれば、水色の三角形に重なった白色の三角形がライトブルーに分断されて、この世界には存在をするのだ。

 それは、ホワイトの三角形に限った現象で事象で事柄ではなく、どの鉄橋も条件としては同じだった。

 三連の鉄橋の一番端である、青の鉄橋に分断される隣の水色と、そのまた隣の白色の三角形と鉄橋は、真逆の方向から宇宙を見据えたのであれば、青と水色の鉄橋は反対側の端の白色の三角形に分断されている。
 加えて、あろう事か、十数メートルの距離を保って稲妻河川敷に張り付いているクリーム色の鉄橋と三角形は、離れた位置にある三色の鉄の橋をまるで咀嚼する様に、パクリ、と大きな口を開けているのだ。
 何たる事であろうか、と胸の手前で両腕を組んだままに瞼を伏せてしまったら、あの、勝負じゃあなかったのかしら、砂木沼君、と吉良瞳子がそれはそれは不可思議そうに問う。
 やる気がないのであれば、臨戦態勢を解くわよ、と淡々と声にする綺麗な青い長い髪の持ち主が、ああ、ひょっとして、貴方らしい分かり難い冗談だったのかしら、と素っ頓狂な言葉を綴った。
 もう少し、分かり易い口上にして欲しいものね、と私に訴えている彼女の弁は常日頃からなかなかに難解であるので、はあ、と男の頬はとんでもなく歪む。
 彼女が、何だか波みたい、と不思議そうに表現するブラックの髪を肩に被せては、いや、本気の言動だったのですが、と私は赤い眼鏡のフレームの向こう側の瞳に主張した。
 あら、ととてつもなく摩訶不思議を抱き締めている彼女の様子が何とはなしに可愛らしかったので、スイ、と腕を伸ばしてヒョイ、とその掌を持ち上げれば、何の真似なの、と釣れない科白も降る。
 好いた相手の手に触れたいのに、理由が要りますか、と砂木沼治の結実を彼女の手前に並べて見ても、やれやれ、とでも発しそうに彼女は面倒そうな瞳と頬で、只、綺麗な姿勢で線路上に佇むばかりだ。
 出会ったばかりの十年前と比較すると、多少短くなった髪をサラリ、と雷門の空の下で揺らしている彼女の掌に、そのままに口付けてしまえば、ピタリ、と触れた口端が持ち上がりそうになる。
 然し、これっぽっちも照れませんね、と苦笑してしまった刹那に、ガタンガタンガタン、と滑稽で可愛らしい音声で稼働している稲妻線の車両が、美しい銀色をその体躯に乗せては鉄橋と線路を走った。
 チカチカ、と柔らかいオレンジ色とクリーム色の中間辺りの色の照明が繰り返して点滅をして、彼女の背後からその青い長い髪と平然を装っているらしい頬を照らすので、ああ、瞳子さん、と男は今にも笑い出しそうで。

 いざ勝負、とひょっとしたら僅かに動揺しているのかも知れない柔らかい背に向かって、組手を切るんですよ。

 ***

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 ザアッ、と構えて組手を切る砂木沼治を歯牙にも掛けてはいないのか、とんでもなく余裕しゃくしゃくの吉良瞳子が大層腕が立つのを私は既知であったので、キリリ、とこの顔面も引き締まる気がしてしまう。
 只の一つも相手にはならない、と表現されてしまう程には悪くはないのだが、如何せん私と比べてしまうと彼女が強過ぎたので、やれやれ、と男は大仰に大袈裟に息を吐き出したくなる夜半もあった。
 それでも、彼女はとてつもなく聡明で理知的で素晴らしくも客観的であったので、常日頃は別段その柔術の腕をひけらかす言動を行わない。
 寧ろ、この身が出会ったばかりの宇宙人であった頃は全く持って知り得なかった情報だ、と瞼の裏に閃いてしまえば、微妙にその可笑しさに吹き出しそうになって、必死で緩みそうな頬を引き締めた。
 途端に微かにムッ、とした目の前の体躯が睨んで来るので、ああ、違います、そう言う意味じゃあありません、と私は慌てて両手を振りながら言い訳の一つでもしたくなるのだ。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 好きですよ、そう言う所も、と唐突に突然に口走ってしまったとしたら、彼女はどんな反応をするのだろう、と思考回路が働けば、無性に膨れ上がる期待らしき感想と感情と感慨が私の胸を一杯に席巻するので、ニヤリ、ととうとう口端を持ち上げた。
 ザッ、と組手を切っていた彼女が私の表情に疑問と質問と設問でも持ったのか、パチリ、と摩訶不思議そうに瞬きをするので、目の前の視界がチカチカ、とまるでついぞ先刻の通過した車両とそっくりそのままに点滅をする様だ。
 ああ、もしや、胸や心が躍った瞬間にピカピカ、と稲妻線の車両のライトが点いたり消えたりするのだろうか、と首を傾げそうになれば、ふと、掌に口付けた彼女の背後で綺麗にイルミネーションの如くに光って見せた車両の照明を思い出す。
 目の前の男にキスをされたのが、嬉しかったのだろうか、と漠然とした胸中で彼女を見据えれば、随分と自惚ればかりが加速しそうになるので、余り甘やかさないで欲しいですね、と見当外れな注釈をしたくなった。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 ムッ、した頬と瞳がそれはそれは心外そうにして恐ろしい程に厳しい組手で私に立ち向かうので、ああ、何と言葉にすれば良いだろうか、と酷く苦笑ばかりを繰り返してしまいそうになれば、彼女の袖の短いジャケットの青が、鉄橋の一つの色と似通っているのに気が付く。
 涼しげに凛々しく私の視界の中で砂木沼治を敵である、と認識している彼女に、ああ、だが然し、赤い鉄橋は存在をしていない、と残念にも唱えそうになった。
 赤いジャケットの袖を繰り出しては彼女の組手をかわそうとしている私は、残りの水色と白とクリーム色だとすれば、私はどれになれば良いのだろうか、と不可思議になる。
 ライトブルーもホワイトもクリームも、余りこの身には似合うとも思えなかったので、いやはや、と困惑と戸惑いも胸の表面に浮かんだ。
 砂木沼治は吉良瞳子の隣にはいない、と言う抽象的な表現であるのだろうか、と四つの鉄橋に目を細めそうになった瞬間に、ゴオッ、と偉く威勢の良い速度で鉄橋を渡ろうとしている車両が滑走をしてシルバーの車体にレッドのラインを引いているので、スカイブルーの鉄橋を走り抜ける姿に、ああ、と砂木沼治は納得をした。

 その瞬間に、ギュッ、と私の胸元の赤いジャケットを掴んだ彼女が、ブウン、と彼女よりも十五センチは高いだろう背を宙に舞わせたので、な、と私は驚嘆をする。
 まるでスローモーションの様に私の光彩と水晶体が捉えている景色で景観がクルリ、と変化して変遷をするので、いっそ目映い星屑でも降り出している如くだ。
 青と水色と白の鉄骨と、その三つが内包している赤茶けた線路がグニャリ、と曲がっては可笑しな形に伸びてしまって、そのままに雷門の空へと突き抜けて行きそうになる。
 童話の中で存在をする銀河鉄道とは、こんな姿をしているのだろうか、とツルツル、としながらもひしゃげてしまいそうな線路の分厚さを思ったら、キラリキラリ、と赤と青の星屑が降った。
 ヒュウン、と私の視界と稲妻町で斜めに落下する星の輝きが大層真っ直ぐなので、何と嘘がないのだろうか、と不可思議を持って吹き出しそうになる。
 あんな経路を辿っていたのでは、ドオン、とこの鉄橋を粉砕しそうに落下するのではなかろうか、と目を見張ったら、フワリ、と組手を取った彼女の両腕が私の体躯を引き上げた気がした。

 投げられて三百六十度で宙を舞ってから、仰向けで彼女を見上げたら、ああもう、一昨日来やがれ、かしらね、と男は告白されてしまうのだ。

(相変わらず強いですね、と素直に賞賛すれば、あら、誰かが弱いのかも知れないけれど、有難う、と彼女も屈託がなかった)



【0200/四羽空中ダイビング】

 泳いで渡って、背を見上げ。
 手を振ったのが、いつの日か。
 魔法が解けても、指を繋いで。
 君と一緒に、パレードしよう。

 三重になっている鉄橋の線路の上を、スタスタスタ、とどれだけ闊歩してしまっても、彼との距離は縮まらない。

 青い鉄橋を形成している、青の上向きの三角形と下向きの三角形を右側と左側とに従えながら、カツン、と少しだけ細長いヒールを線路に乗せて音を鳴らせば、フワリ、と吉良瞳子の裾も踊った。
 膝が隠れる位のワンピースの裾を揺らす私が、スイ、と僅かに持ち上げた目線で十数メートル右手に建設されているクリーム色の鉄橋を見やれば、彼は私と同じ進行方向に歩いているのだ。
 カツンカツン、と私のサンダルのヒールが真夜中の世界と日本と宇宙と稲妻町で歩を進めれば、バッ、と彼も大きめの歩幅でクリーム色の鉄橋を行く。
 まるで漆黒の波とそっくりなうねうねとした流れを、真夜中の二時過ぎでもギュッ、と頭部の斜め上で結んでいる砂木沼治は、ヒョイ、と顔を私と青の鉄橋の方へと向けては、はてさて、と首を傾げた。
 トン、とクリーム色の鉄橋を形成している三角形の鉄骨に手をやってはそれに右足を掛けたりいっそ上ってしまったり、どうやら、彼はこちらとの距離を測っているみたいだ。
 ヒラリ、と額と瞼の真上にその左手をかざした彼が、いっそフレミングの法則の様に親指を立てて人差し指と中指で直角を作るので、ああ、ひょっとしたら、その大きな掌と指でクリーム色と青の鉄橋までの正確な長さを計測しているのかも知れない、と気が付いた。
 鉄橋の三角形に足を掛けてはその体躯を雷門の空の下に持ち上げていた彼が、ストン、と赤茶けた線路の真上に飛び降りては、スタスタ、とクリーム色の鉄橋の端に立つ。
 ジッ、と真っ直ぐな目線でクリーム色の鉄橋の反対側の端と十数メートルは離れている三色の鉄橋を見やった体躯が、ザッ、と吉良瞳子に向かって走り出してはガキン! と彼のスニーカーの踵と鉄橋がぶつかって音を鳴らした。
 クリーム色の三角形が空気を内包している空の部分から、河川と三色の鉄橋に対して飛び出そうとしている彼は、やれやれ、と胸の手前で両腕を組んでは首を捻るので、もしや走り幅跳びのつもりなのだろうか、と心底摩訶不思議になる。

 幾ら助走を付けたとしても、クリーム色と青の鉄橋間の距離はどうにもこうにも十数メートルだった。

 しかも、彼の佇んでいる鉄橋の幅自体が約六メートルなのだから、過去に漆黒と白色で完成している球体で持って世界を征服しにやって来た、と声高々に宣言をした元地球外生命体だって、助走に取れる距離は同じく約六メートルだ。
 ちょっとどころか、かなり届かないわよね、と極々自然で当然な感触で右手側遠方の砂木沼治を見やる私は、まるで鉄棒にでも掴まる様に上部の鉄橋に腕を伸ばした彼が、ブウン、と反動を付けてその体躯を揺らしているのに軽く驚嘆する。
 ガシャン、と非喜劇的な音階も鳴らさずに、スタン、とクリーム色の鉄橋の真上に上った彼は、スイ、と膝を伸ばしては立ち上がり、真っ直ぐにこちらを見据えていた。
 彼の足元は誓って決して革靴の踵ではなく、ホワイトとレッドのスニーカーであったので、そのゴム底は特別格別、カラン、と下駄の様な音を鳴らしはしない。
 スタスタスタ、とクリーム色の鉄橋の上を歩いて見せて、クルリ、と百八十度を反転した彼が吉良瞳子と青い鉄橋に向き直るので、パチリ、と私は瞬きをした。
 刹那、ダッ、と数歩を駆け出した彼がクリーム色の鉄橋の端から端までを助走で闊歩しては、空へと表現するよりも河川に向けて飛び込みそうなので、ああ、と頬が引き釣りそうになる。
 彼の為に走り幅跳び計測用のスタートラインはただの一つだって引かれてはおらず、印としてあるのは眼下のクリーム色の鉄橋の鉄骨ばかりだった。
 これっぽっちも迷いのないスピードで鉄橋を真横に助走で滑走する彼が、バッ、とクリーム色の三角形の端で踏み切っては雷門の空に向かって飛び出したので、砂木沼君、と思わず声を上げそうになる。
 別段彼にはジェット噴射で重力に反する事が可能な装置は何も付されてはいなかったから、恐ろしい速度で鉄橋から飛び降りた体躯はギュウン、とたゆたっている河川へとまっしぐらだ。
 ああ、どうしよう、と両目を見張ってしまった刹那に、バサリ、ととんでもなく大仰で大袈裟な音声でも付加しそうに真っ白な巨大な翼が彼の背に生えては、白い羽は川の表層に散る。
 一瞬だけ伏せた瞼を持ち上げて、ニヤリ、と口端を上げた彼を真夜中の雷門の上空に見上げる私は、バサリバサリ、と大きく羽ばたかせるそれが華奢ではなくて、骨太の頑強さに見えてしまった。
 グウン、と河川スレスレまで自由落下をした彼の翼は濃紺と灰色と薄紫色の空にくっきりとはっきりと浮かんでいて、ユラリ、とその両腕と両足を支えては揺らめくのだ。
 クリーム色の鉄橋を飛び降りた貴方が青の鉄橋の真上で笑んで見せては、フワリ、と私の目の前に降り立って吉良瞳子に腕を伸ばすから、ああ、砂木沼君、私ね。

 ギュウ、と抱き締められて、持ち上がった頬が私の左耳に触れて、何だかドキリ、と鼓動が跳ねるみたいなのよ。

 ***

「…………」
「…………」
「ちょっと、砂木沼君」
「はい?」
「…………」
「…………」
「あのねえ、【ゴッドノウズ】はフィールドでなさい」
「はあ、届かなかった物でして」
「…………」
「…………」
「それはそうなのかも知れないけれど、何も飛ばなくとも」
「はあ、貴女まで届かないのが悔しかったので」
「…………」
「…………」
「ねえ、鉄橋はね、河川を繋いでいるのよ」
「はあ、そうですね」
「…………」
「…………」
「稲妻河川敷の、土手から土手までね」
「はい」
「…………」
「…………」
「土手から土手まで、鉄橋は掛かっているのよ」
「はい」
「…………」
「…………」
「クリーム色の鉄橋を渡って土手まで着いたら、土手を少しだけ歩いて青い鉄橋に来たら良かったのじゃない?」
「え」
「…………」
「…………」
「鉄橋は、土手の真上なのだし」
「ああ、成程」
「…………」
「…………」
「そうでしょう?」
「ああ、瞳子監督は聡明ですね」
「…………」
「…………」
「何が?」
「私には、その発想は一つもありませんでした」
「…………」
「…………」
 全く持って、これっぽっちもです、とクッ、と喉の奥でひたすらに笑っている彼が私の左肩と首に顔を埋めたままなので、微妙にくすぐったくて唇を噛み締めた。
 バサリ、と大きく広がっては彼の体躯を浮かび上がらせた四枚の羽がすっかりときっかりと世界と日本と宇宙と稲妻町から消滅しているので、どう言う原理なのかしら、ととてつもなく不可解になる。
 彼の腕に抱き締められたままに、その背中を掌でペタリ、と触れて見ても、羽どころか何かしらの存在は皆無で、吉良瞳子の右手と左手とは砂木沼治の赤いシャツばかりに触れた。
 肩甲骨、と漠然とそう思考しながらその周囲の筋肉に触ったままでいたら、あの、何ですかね、と僅かに戸惑った声音で私の首に埋まっていた頭部が持ち上がるのだ。
 ペタリ、と彼の背中に腕を回したままにジッ、と至近距離の真っ赤な光彩を見詰めてしまえば、大層照れくさそうな表情の傍で随分と気恥ずかしそうに頬が歪む。
 客観的な思考回路で現在の砂木沼治と吉良瞳子の体躯の動きを想像して見れば、ああ、ひょっとしたら私は彼の胸に顔を埋めるのが正しいのかしら、と偉く可笑しな感想と感情と感慨だって、チカチカ、と瞼の裏に閃いた。
 彼の唇と私の唇までの距離だって精々が十センチ程度であったので、もしや瞼を閉じるのが先決なのかしら、と何とはなしに浮かんでしまったこれまた可笑しな気持ちにも気付いて、ああ、とこの胸中は笑い出しそうにもなるのだ。

「…………」
「…………」
「あの、どうかしましたか」
「うん、砂木沼君の【ゴッドノウズ】の羽は、どこに行ったのかしら、と思って」
「…………」
「…………」
「ああ、それでしたか」
「ええ」
「…………」
「…………」
「いや、飽くまでもイメージですから、実際に生えている訳ではないですし」
「そうかしら」
「…………」
「…………」
「はい」
「本当かしら」
「…………」
「…………」
「いや、生えていませんし」
「ふうん」
「…………」
「…………」
「瞳子監督は、結構疑ぐり深いですか」
「だって」
「…………」
「…………」
 本当なのかしら、あんなにも鮮明に明瞭に視覚化されているのに、とほとほとの摩訶不思議ばかりが私の心を席巻するので、ああ、そうだわ、とヒョイ、と彼のレッドのシャツを背中側から引っ張って、ピタリ、と掌を伸ばした。
 ソッ、と触れてしまった肌には柔らかい羽はこれっぽっちも見当たらないので、あら、ととんと意外で首を傾げそうになる。
 ふうん、そうなのね、と納得をして首を傾げたら、至近距離で真っ赤な光彩をグルグル、と回転させて目を回しそうになっている紅潮した顔面とグラリ、と揺れていそうな上半身があるので、パチリ、と私は瞬きをした。
 どうしたの、砂木沼君、と宇宙に飛び出してしまいそうな疑問と質問と設問を彼の目の前に並べて見れば、あの、勘弁して下さい、と何かを必死で堪えている奥歯が噛み締められているので、はてさて、と私の心は不可解ばかりだ。
 男が、私がやったとしたら、殴られる所行ですよね、と声も絶え絶えに発する彼が不可思議だったので、ちょっと背中に触っただけじゃない、そんなの別に、と言葉にしてしまえば、ガッ、と見開いた瞳にとんでもなく睨まれた。
 じゃあ、構わないんですか、と悔しそうな瞳と苦しそうな頬に問われたので、だって、別に、と返そうとした瞬間に、スイ、と私のワンピースの袖から大きな指先が触れるので、ギクリ、として彼を見上げる。
 何とも申し訳なさそうに私の背中に触れる掌と指先が酷く熱っぽいので、ドキリ、と跳ねる心臓にポカリ、とその温度が移ってしまいそうになるのだ。

 離してしまった掌を大事そうに握っては、それを睨んでいる真っ赤な光彩があるので、余程私の方が照れくさくなってしまった。

(あの、羽でもあったかしら、と訊ねてしまったら、だからイメージですし! と真っ赤な瞳は絶叫するのだ)


~以下、「おさみこ、ときどきネットワーク」に続く~



スポンサーサイト

右サイドメニュー