ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

Entries

「オサミコイズハッピー!~ニジイロ24か月~」

治瞳本11も刷り上がってきました!

ハッピー!カバー

■「オサミコイズハッピー!~ニジイロ24か月~」
A5/128P/カバーフルカラー/表紙フルカラー/本文単色カラー/
表紙イラスト:【MATHEMATICA】西野ムギ様(【ハニー★カム】ファーストページよりどうぞ)

■オサーム様(15歳)と瞳子監督、砂木沼コーチ(25歳)と瞳子さんが毎月同じお題(1月:お正月/2月:バレンタイン/3月:転機/4月:桜/5月:端午の節句/6月:傘/7月:コンドーム/8月:浴衣/9月:スタジアム/10月:味覚/11月:嵐/12月:クリスマス)にて、「十年で二人がこのくらい変わった!」(または変わらなかった!)を24話で検証します。

※特殊仕様なので、これ(↑)がカバーで、こっち(↓)が表紙です。

ハッピー!表紙

■本文サンプルは、続きよりどうぞ。





【1501/空色ファイナリスト】~「オサミコイズハッピー!」1話より~

 萌葱に紫陽花、桜色。
 締めてしまえば、指は空。
 予約はどうか、と訊ねて見ても。
 浅黄が縁と、紐を引け。

 髪を結っている彼女に見とれてしまったら、雷門の空が、呆れた様に静かに佇んだ。

 クルリ、と彼女の青くて長い綺麗な髪が、世界と日本と宇宙と稲妻町で三百六十度を二回程回転をして、美しくもその頭上でピタリ、と静止する。
 スタスタスタ、と吉良邸自慢の縁側に接している和室でその足を進める吉良瞳子は、常日頃と様子が異なるのでもなくその両足と両腕を動かしているのに、この鼓動は何だろうか、と自らに摩訶不思議が弾ける様だった。
 極々自然に当然に、水色の着物の裾の彼女は普段よりも歩幅が狭いのだけれど、別段、その為に印象が異なる訳ではない気がする、と砂木沼治は首を捻る。
 日常的に彼女の長い髪は結ばれたりする事がなく、フワリ、と吉良邸の宙で柔らかく踊るので、本日の彼女にはそれが皆無だからだろうか、と私はほとほと疑問と質問と設問とを抱えているのだ。
 はてさて、と吉良邸の和室に座して彼女を見上げてしまったら、キュッ、と結われている髪と繋がっている、常日頃は隠されている首筋が随分と露わになっているので、ドキリ、と繰り返してこの鼓動が跳ねる。
 否、特別格別、不埒な感想と感情と感慨ばかりでこの胸は席巻されている訳ではなくてだな、と誰に対してでもなく言い訳をしそうになれば、何とはなしに、世界と日本と宇宙と稲妻町の正月と言う行事に感謝をしたくなった。
 元旦よ三が日よ、松の内よ有難う御座います、とどうにもこうにも握り拳が震えそうに右手を握り締めてしまったら、パチリ、と普段とは変わりのない瞳が瞬きをするので、ギクリ、と右肩と右腕が硬直しそうになる。
 どうかしたの、砂木沼君、と昨日と比較すると僅かに赤みが差している気のする唇に問われてしまったので、いいいえ、何でもありません、と大慌てで叫びを上げそうになった。
 ブンブンブン、と右手と左手を大仰に大袈裟に左右に振ってしまったら、この両腕はまるで滑稽な振り子の様だろうか、ととんでもない摩訶不思議は私の心にプカリ、と浮かぶのだ。
 ああ、一人で着付けをしたから帯が可笑しいのかしら、とはた、としたのか自らの背中を見ようと顔を傾ける彼女に、いや、流石に見えないと思いますよ、と苦笑をしそうになった。

 深緑の帯は金糸と銀糸を配して、ギュウ、ととてつもなく美しく結ばれているのだ。

 いえ、綺麗ですよ、と言葉にしてしまった刹那に、帯結びは、と付さなかった自らに、ああ、と後悔してしまった。
 何と気恥ずかしいのか、とまるで彼女自身を指しているかの様な表現に微かに動揺してしまったら、それなら良かった、と吉良瞳子はニコリ、と真っ直ぐに笑んだ。
 何とはなしに、笑顔さえも常日頃とは異なる気がする、と漠然とした感触を持て余している砂木沼治は、グラリ、と上半身が揺れている予感がするので、一体全体これは何だろうか、とほとほと不可思議になる。
 吉良邸の和室に座したままに、ジッ、と真っ直ぐに彼女を見上げてしまったら、スイ、と水色の腕を持ち上げた彼女の袖がフワリ、と和室に面している縁側でもたゆたうので、ドキリ、と私の意志とは無関係に鼓動が跳ねた。
 何と自分勝手なのだろうか、と大層目を細めてしまいそうになりながら、視界の中に非日常である吉良瞳子の姿を映してしまえば、パチリ、と何度でも彼女は疑問と質問と設問とを抱き締めているのか瞬きをする。
 別段、作っている訳でもないのでしょうに、睫が長いですよね、と胸の奥底が疼く様な感触が砂木沼治を支配しようとするので、否、本日は少しだけ外見が異なるだけで、中身は普段の彼女と変わりがないではないか、と自らを叱咤した。
 平常心だ、砂木沼治、と自分自身を結構な所で必死に鼓舞してしまえば、それと全く反比例するかの如くにこの心臓が泣き叫びそうに動作するので、私はどうしたら良いのだかが分からなくなるのだ。
 情けない、と大仰で大袈裟に深くて大きな息を吐き出してしまったら、伏せた瞼の裏にはピカリ、と柔らかく目映い新年の日差しも踊った。
 今年は、どの程度成長するのが叶うだろうか、と胸の手前で両腕を組んで軽く唸ってしまえば、背ばかり伸びてしまって精神的に幼いのでは本末転倒だが、この体躯はグン、と伸びてしまっても構わないのだ、と私は可笑しな希求さえも胸に抱えている。
 特別格別、砂木沼治は吉良瞳子が身長で異性を判断するとは思考してはいなかったけれど、否、声に出さないだけで、こっそりとひっそりと背の高い男が好みなのかも知れない、と私はずっとずっとずっと彼女を訝しんでいた。
 砂木沼治の背丈は吉良瞳子よりは高かったけれど、彼女は女性にしてはなかなかに長身であったので、もう十センチ程あれば理想的な身長差なのだろうか、ととんでもなく馬鹿馬鹿しい望みを宇宙に向かって吐き出しそうな唇かて、この頬にある。
 ああ、全く持って不届千万、と上半身がより傾きそうになった瞬間に、ストン、とどうしてなのだか吉良邸の和室で正座をしている私の膝に水色の晴れ着の膝先が触れるので、ああ、あのですね、瞳子監督。

 どれだけ雷門の空に笑われようとも、世界と日本と宇宙と稲妻町に絶叫しそうに、この頬は歪んでしまうんですよ。

 ***

「ああああの、瞳子監督」
「うん」
「…………」
「…………」
「な、何ですか」
「あのね、砂木沼君に訊きたい事があって」
「…………」
「…………」
「は、はい?」
「あのね」
「…………」
「…………」
「そ、その前に、なぜ、ここに座るんですかね、膝が」
「何となく」
「…………」
「…………」
「な!?」
「あのね」
「…………」
「…………」
 帯結びは大丈夫でも、私の着物、やっぱりどこか可笑しいのかしら、と思って、とそれはそれは淡々と科白を綴っている水色の袖と膝とが折り畳まれて砂木沼治の正座の膝の先に収まっては触れているので、ワナワナ、と偉くこの頬が歪んだ。
 ツイ、と吉良邸の和室の畳に触れている彼女の指先が柔らかく光って、常日頃は塗らないのだろうマニキュアをしているのだか、只々単に磨いてあるのだか私には判別出来ない爪に、クラリ、とする視界で目を見張る。
 いえ、そんな事は、と声にしてしまえば、クスクス、とうっすらと楽しそうなそれを隠している様に彼女の頬が綻んだので、ギクリ、ととんでもなく困惑しそうになった。
 砂木沼君は、着物に煩そうだから、とクスリ、と笑って見せる彼女がそれこそ嬉しそうなので、これっぽっちも心配や懸念がある様には見えませんがね、と彼女を酷く睨んではそうと吐き捨てそうになる。
 いえ、着付けや帯には可笑しな箇所はありませんし、お似合いですよ、と只々一般的な、とんでもなく薄っぺらい賛辞の如くの言葉を連ねてしまったら、否、言いたい事はそうではない、とズキリ、とどうしてなのだかこの胸が痛んだ。
 ピタリ、と柔らかく微かに触れている彼女の水色の膝が温かいので、それだけで、なぜだか私の胸中は溢れてしまいそうに一杯で、頬は偉く歪んでいるのだけれど。

「以前から、瞳子監督は綺麗な人だとは思っていましたが、本当に素敵ですね」
「あら、有難う」
「…………」
「…………」
「いえ」
「着物ってすごいわね」
「…………」
「…………」
「いえ、そうではなくて、ですね」
「うん?」
「…………」
「…………」
「あの、そうではなくて」
「うん」
「…………」
「…………」
「いえ、あの、ですね」
「何?」
「…………」
「…………」
「着物がどうとか言う、話ではなく」
「うん」
「…………」
「…………」
「ああ、ええと、ですね」
「うん?」
「…………」
「…………」
 どうすれば伝わる、と酷くもどかしい胸中で唇を噛み締めてしまったら、パチリ、と瞬きをする彼女は静かに真っ直ぐに砂木沼治を見やっていて、私の言葉を急かしたり差し示したりはしない。
 優しいですね、と苦笑してしまいそうになった刹那に、ああ、と年上らしい寛容さを見せ付けられた気分になって、僅かにキシリ、と心臓の傍の内臓が軋んだ。
 砂木沼治は既に本来伝えたい事は言葉にしていたので、後は彼女がそれを受け取ってくれるかどうかなのだが、と喉が詰まりそうになった。
 何度も繰り返しても、意味が薄れてしまう様な気がする、然し、ととんでもなく頬が歪んでしまったら、そんな私を見上げる彼女が唐突に突然に、クスクスクス、と偉く楽しそうに笑うので、何ですか、と絶叫しそうになる。
 あのね、朝からずっとずっとずっと、砂木沼君に穴が開きそうに見られているから恥ずかしくって、ととうとう笑い出した彼女が微妙に照れくさそうなので、いや、そんなには見ていないと思いますが、と吉良瞳子の弁を訂正したくなった。
 こうね、ポカン、としちゃって、私が振り向くと目を反らしたり、でもね、またこっそりとひっそりとね、見ていたりするから、とクスリ、と頬を持ち上げた彼女が、何だか気に入ってくれたみたいで、有難う、と笑む。
 無意識で、それ程に見据えてばかりいたのだろうか、と己に気恥ずかしくなってしまったら、触れたままになっている膝がポカリ、と熱を持ったので。

 私も着替えてきます、負けませんよ! と吉良邸の和室で叫んでしまえば、パチリ、と彼女は瞬きをするのだ。

(そうと発した物の、触れている膝が少し惜しかったので、男はなかなか立ち上がれなかったけれど)






【2501/青空デュエリスト】~「オサミコイズハッピー!」2話より~

 喧噪紛争、魂葬無双。
 腕を振り上げ、相対すれば。
 愛が痛いよ、と声を上げ。
 落ち着いたのが、この大地。

 もう、降ろして砂木沼君! と右耳の後ろで絶叫されたので、もう、喧嘩をしませんか? と水色の着物に問うた。

 水色の袖と裾と腰とを右肩に担ぎ上げて世界と日本と宇宙と稲妻町を闊歩してしまったら、砂木沼治の鼓膜が湾曲しそうに、しないわよ! と常日頃は冷静で客観的で理知的な彼女が叫ぶので、私は思い切り目を細めてしまうのだ。
 本当ですかね、と綺麗な柔らかい色をしている水色に訝しい気持ちのままに訊ねて見れば、本当よ! と本日も多分に柔らかいのだろう唇が叫びを上げるので、やれやれ、と私は息を吐き出した。
 ヒョイ、と彼女の体躯を持ち上げて右肩に重量として乗せながら、稲妻町前駅と稲妻河川敷とが繋がっている煉瓦の舗道沿いにある朱色の鳥居を潜ってしまったら、ああ、だから三が日が明けてからにしませんか、と確認をしたのに、と瞼を伏せて唸る。
 あら、どうしてよ、お祭りの屋台が減ってしまうかも知れないじゃない、とどうにもこうにもとんちんかんな弁を繰り広げた吉良瞳子に、貴女は初詣に行くんですか、それとも屋台を堪能しに行くんですか、と頬が歪んだ。
 だって、どうせなら両方をクリア出来たら一石二鳥じゃあないのかしら、とほとほと不可思議だ、と真っ直ぐな声音で言葉にされたので、まるで砂木沼治の弁が可笑しいのではなかろうか、とでも言われている気分になった。
 いや、否だ否、と小さく頭を振ってしまいながら、いえ、出店は松の内までは、七日までは同じ様に出ていますから心配は要りませんよ、と稲妻町の現実と事実と真実とを述べてしまったら、そうかしら、と彼女はとんでもなく不思議そうに首を傾げるのだ。
 じゃあ、試しに八日に行ってみませんか、境内前の舗道が空っぽになっていると思いますがね、と特別格別閑散としているのでもなく、ジャラ、と白と灰色の混ざっている砂利と石畳の上に展開される出店の屋台を思ってしまえば、まあ、あれは存在しないのが普通なのだが、と偉く苦笑しそうになる。
 吉良瞳子は、その生まれ育ちの割には別段恐ろしく舌が肥えていたり料理を値段や手軽さで区別する事がないので、ケースバイケース、を知っているその口中は屋台の味を楽しむのを心待ちにしていたし、常日頃から放って置けばサンドイッチばかりを口にしているのだ。

 夕飯は何が良いですか、と質問をすれば、ハンバーグカレー、とまるで小学生の様な返答も踊る。

 良い大人の女性がそれは何ですか、とフラリ、と上半身が傾きそうになってしまえば、あら、嫌ね、砂木沼君が訊いたのじゃない、と大層立腹した振りかて私の目の前で動作した。
 然し、彼女の舌は薄味の和食を口にした時でも嬉しそうに綻んでいるので、ああ、味覚が可笑しい訳ではなくて良かったですよ、と私は繰り返して溜息をする。
 全く持って、やれやれだ、ととてつもなく歪んだ頬で持って、ジャラリ、と砂利を蹴飛ばす様に革靴の先に引っ掛けてしまったら、右肩に乗せては右手と左腕で支えている体躯が、ん、と苦しそうな声を上げた。
 大丈夫ですか、と僅かに斜め後ろに問うて見れば、こんな風に荷物みたいに持ち上げられて、痛くない訳がないじゃない、とそれはそれは心外そうな音もするので、誰のせいですか、第一、一応乗せ方に気を遣ってはいますがね、と注釈をしたくなる。
 これまでに、貴女をお荷物だと思った事はこれっぽっちもありませんし、実質的な荷物だとも一度も考えてはいませんよ、と瞼を伏せてしまってから、仕方がないか、と右手と左手に力を入れて、ゆっくりと着物の体躯を地上へと降ろしてしまえば、ヒラリ、とその水色の袖が揺れた。
 何だかその色は久しぶりな気がする、と口端が持ち上がりそうになりながら、ここ数年は暖色系の着物に袖を通していた彼女を見やってしまえば、ああもう、と尖らせた唇が心外そうに音にするのだ。
 ん、と短い科白と一緒に右袖と左袖が雷門の空へと掲げられて、ヒラリ、とその水色が私の視界の端を席巻すると、グイン、と彼女は両腕を伸ばして背伸びをした。
 仮にも着物姿の女性がするべき動作ではないですが、ととんでもなく目を細めてしまえば、そんな砂木沼治の無言の訴えを感じ取ったのか、あら、行儀が悪いかも知れないけれど、砂木沼君が行けないんじゃない、と彼女は取り合いやしない。
 ヒョイ、と傾げた首元は綺麗な襟のままに存在をするので、背中の帯結びを気にしている吉良瞳子に、平気です、着崩れしない様に持ち上げましたから、と男の誠意を宣言でもしたくなってしまった。
 うん、と自らの着物姿に納得をしたのか彼女は顔を持ち上げて、行きましょう、砂木沼君、とどうしてなのだか私の名前を呼ぶので、ああ、瞳子さん、と男はですね。

 十年前に、水色の袖に緊張して貴女を睨んでばかりだったのを何となく思い返しては、笑い出しそうになっているんですよ。

 ***

「あの、瞳子さん」
「何?」
「…………」
「…………」
「良い大人なんですから、初詣の境内で喧嘩をしないで下さい」
「あら」
「…………」
「…………」
「全く、数分離れただけで、何なんですかね」
「だって、向こうが勝手に売ってくるんだもの」
「…………」
「…………」
「気の良い酔っぱらい達の話は、聴かなくて良いと思いますよ、無視して下さい」
「だって、連れがいるって言っているのに、しつこいんだもの」
「…………」
「…………」
「はあ、そうでしたか」
「砂木沼君も気を付けた方が良いわよ、しつこい男は嫌われるから」
「…………」
「…………」
「はあ、分かりました」
「それにね、砂木沼君が行けないのよ、なかなか戻って来ないから」
「…………」
「…………」
「いや、精々が二、三分でしたがね」
「それが長いのよ、何よ、お好み焼き一つ位で」
「…………」
「…………」
「買って来て、と言ったのは瞳子さんでしたが」
「それにしたって、遅いのよ」
「…………」
「…………」
「屋台も混んでいますし、誰かさんの注文が、お好み焼きと焼きそばと糸蒟蒻と杏飴だった物で」
「ああ、男の子は大変ねえ」
「…………」
「…………」
「少し手加減して下さい」
「嫌」
「…………」
「…………」
 手加減はねえ、もうこの十年でし飽きたわね、と恐ろしくも酷い宣言がなされたので、果たしてどこの誰が手加減を心得ていて、これまたどこの誰にそれを付加していたのだろうか、ととんと不思議になった。
 この身は吉良瞳子に手加減とやらをされた記憶が皆無であったので、ああ、もしや砂木沼治以外の男の話をしているのかも知れない、と何とはなしに可笑しくなる。
 瞳子さんに手加減をして貰った男とやらが、とんでもなく羨ましいですよ、と心の底からの感想で感情で感慨を彼女の水色の着物の肩に並べてしまったら、パチリ、と瞬きをした瞳が振り返る。
 ジッ、と真っ直ぐに私を見上げている彼女の顎の角度が、十年前よりも大きい事をこの脳内は既知であるので、微かにドキリ、と鼓動が鳴った。
 ああ、当時は大して背が伸びなかったらどうしようか、と結構な所で真剣に真摯に思考していたこの胸中が、随分と心配性であったのだ、と今更ながらに自覚をする。
 多分に、そんなに小さな結実で男を判断する様な性格と性質と心根を彼女は持っていなかったけれど、否、只々単に、これは男の意地の様な物なのだ、と私は一つを頷いた。

「ねえ、しないと駄目かしら」
「はい?」
「…………」
「…………」
「駄目?」
「何がですか」
「…………」
「…………」
「手加減」
「ああ、そうですね」
「…………」
「…………」
「またするの?」
「あの、瞳子さんは、いつ私に手加減とやらをしていたんですか」
「…………」
「…………」
「嘘みたい、知らなかったの?」
「はあ」
「…………」
「…………」
「本当に、分からなかったの?」
「はあ」
「…………」
「…………」
「どうしよう」
「はあ」
「…………」
「…………」
「砂木沼君」
「はい」
「…………」
「…………」
「嫌い?」
「何がですか」
「…………」
「…………」
 何だかついぞ先刻と似た様な問答になってしまっている気がする、と目を細めてから首を捻りそうになれば、手加減をしない吉良瞳子は、と彼女の唇が真っ直ぐに問う。
 うむむ、と三十秒程を大層生真面目に思考して見たけれど、正直な所、砂木沼治は吉良瞳子に手加減をされた経験が誓って決してないので、否、と答えは一つしかなかった。
 いえ、嫌いじゃあないですがね、と渋々声にして見れば、パチリ、と瞬きをした彼女が段々と照れくさそうな頬になるので、あの、好きだとも言ってはいませんが、と注意喚起でもしたくなる。
 普段はフワリ、と真っ直ぐに揺れる彼女の髪は、クルリクルリ、と円を描く様にギュッ、とまとめられて珍しくも頭部の斜め上にあるので、微かに照れくさそうな表情が際立つ気がした。
 相変わらず綺麗ですし、似合いますね、と彼女の首元からずっとずっとずっと繋がっては広がっている水色の着物と袖を見詰めてしまったら、砂木沼君、と昔と変わらずに同じ音階でこの体躯を呼ぶ声がするので、ドキリ、と繰り返してはこの鼓動は鳴って。

 お好み焼き、と彼女が掌と水色の袖を差し出すので、どうぞ、と私は彼女の望みを叶えるしかないのだ。

(美味しい、と嬉しそうに綻んだ頬が幸せそうなので、林檎飴もどうですか、と声にしてしまった)


~以下、「オサミコイズハッピー!」に続く~






スポンサーサイト

右サイドメニュー