ハニー★カム:日誌

ぱちりとした写真やのんびりまったりその日の一言

Entries

「0331~吉良邸リスタート~」

治瞳本10も、ちゃんと刷り上がってますよ!

0331

■「0331~吉良邸リスタート~」
A5/52P/表紙フルカラー/本文モノクロ/
表紙イラスト:【MATHEMATICA】西野ムギ様(【ハニー★カム】ファーストページよりどうぞ)

■オサーム様が高校入学を機に吉良邸を出ようとして、瞳子監督がそれを見送る話。

■本文サンプルは、続きよりどうぞ。









【0322ハープシコード】 ~「0331」1話より~

 隠せるのなら、隠し通して。
 言い聞かせるのは、大人の役目。
 弾けた言葉、音で踊って。
 即座に即答、桜は咲いた。

 誰が何と言おうと、砂木沼治は高校入学前に吉良邸を出る、と決めていた。

 誓って決して、私の意志と意図と意識を止められる者も、実行と決行と行動を止められる者も世界にも日本にも宇宙にも稲妻町にも存在はしなかったのだし、この身は無事に合格をしたのだから、決意はこれっぽっちも揺るがない。
 第一、不合格となる訳がないではないか、と一ヶ月程前の入試の内容と手応えを回想してしまったのなら、うむ、と私は一つを頷くのみだったのだ。
 世界と宇宙はさて置き、日本と稲妻町に於いて高校生で十五歳ともなれば、特別格別、個人的な問題さえなければ就職は兎も角としてアルバイトは行えるのが常なのだから、自らの食費位は稼いで行け得るだろう、と私は思考する。
 本来であれば、生活費の全てを賄えるのであれば申し分はないが、そこは学生は学業が本分である、と言う現実と事実と真実とを忘れてはならなかった。
 学費は奨学金頼みになってしまうが、別段私は砂木沼治の能力と努力とを過信してはいないのだから、多分に懸念なく受領出来るのではなかろうか、と極々自然と感じられる。
 否、感謝の心も忘却してはならない、と瞼を伏せてから軽く唸ってしまいそうになる体躯は、家賃以外の費用を自らで入手出来れば理想的なのだが、とうむむ、と喉と顎とが音を鳴らした。
 無謀ばかりを行っても仕方があるまい、と私の中にも冷静で客観的な思考回路は現存しているので、まずは一つずつだ、とこの顎は自分自身を納得させる様に頷くのだ。
 吉良邸に残ったままに日々のアルバイト料を食費として渡した方が、もしや総合的なバランスとしては美しくも理知的なのではなかろうか、と言う予想と予測と予感もこの胸中を走ったけれど、どうにもこうにも砂木沼治は大きな希求を止められはしない。
 自分のみで生きて行くのは叶わない、とも理解している筈なのに、そうと選択したいこの脳内は、己だけでどこまで出来得るのかを試して見たいのかも知れなかった。
 この心は逸っているのだろうか、時期尚早だろうか、と僅かに不安も心をよぎったけれども、それでも、と巡る思いは変わりはしなかったのだ。
 別段一人になりたいのではなく、素早く一人立ちをしたいのだ、と随分と大仰で大袈裟な望みを大層即座に叶え様としている私は、それさえもが自らだけで完結出来はしない、と既知でもある。
 一歩ずつでも構わないから、可能な限りそれに近付きたいのだ、と漠然と希求していた胸中が膨らんでしまったのは何時だったろう、と首を捻りそうになった。

 うむむ、と唸ってしまえば、ゆっくりとゆったりと持ち上げた瞼の向こう側で、吉良邸自慢の中庭が笑う。

 もう三月に入ってしまい、来年度まで残り十日と迫った時期になればなかなかに気温は上がって、ポカポカ、と日差しは暖かく、雷門の空は機嫌良く快晴だ。
 秋口と真冬前にすっかりとしっかりと葉を落としてしまった吉良邸の中庭の桜の枝も、グングン、と新しい蕾を膨らませては芽吹かせて、少しずつ花弁もほころびそうになる。
 濃茶の幹がカラリ、と乾いてしまっていた真冬でも、桜は枯れてしまっていた訳もなく、只々ひたすらに柔らかく暖かい日差しと気温と季節を待っていた。
 触れれば、カラカラ、と音を鳴らしそうに固く静かに佇む枝が、既に生き生きと動きそうに少しずつ伸びて行くのを視界に映す私は、吉良邸の中庭に面している縁側に腰掛けて、真っ直ぐにその枝と蕾を見据える。
 斜めに顎を傾けて大層立派な落葉樹を見上げている砂木沼治は、満開になるのは後二週間程だろうか、と首を傾げそうになった。
 稲妻町の最高気温と最低気温とが例年通りであるのなら、開花が促進されるのはやはり四月の上旬であろう、と私は思考する。
 満開の桜の枝をこの目で見ないままに、吉良邸を後にするのは少しだけ残念だ、と至極当然の如くの感想と感情と感慨とを抱いてしまったら、今だけでも良い、春が加速しないだろうか、と可笑しな気分になった。
 現状として昼日向はとんでもなく、ポカポカ、と春らしく暖かい雷門の空が、既に現実として事実として真実として春先ではなく春真っ盛りなのだ、と認識を誤ってしまえば、日々の最高気温がどんどんと上がってしまえば、桜だとて勘違いもするのではなかろうか、と何とはなしに思う。
 とてつもない希望だな、と自らに苦笑してしまえば、ヒュウン、と中庭から吹いて来た風が南風と評するよりも、ずっとずっとずっと北風に近しい温度をしていたので、私は目を細めてから瞼を伏せた。
 恐ろしい位に都合の良い願いだ、と自らの思考回路に再度苦くも笑って口端を持ち上げたら、昨年の春にこの縁側で頬をほころばせた彼女の笑みが瞼の裏に浮かんだので、一瞬だけ息を飲む。
 ああ、嬉しそうな彼女の顔が見たい訳か、と分かり易く砂木沼治を理解して判断してしまったら、吉良瞳子をあっと言う間に笑ませてしまう吉良邸の中庭と桜の花弁の力が身に沁みる様だった。
 私には無い物だな、と重々承知ではあったけれど、酷く苦笑をして件の力を偉く羨ましく思う私は、それでも、吉良邸の中庭と一体化してしまう訳にも行きやしないので、ああ、瞳子監督、私はですね。

 この決意は揺るがない、と結実として分かっているのに、貴女の瞳と頬とを想うと、それが揺れそうになります、と苦笑を繰り返すんですよ。

 ***

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 ヒュウン、と私の頬を掠める風が吉良邸の中庭側から吹いて、その温度は既に真冬のそれではなかった物だから、ついぞ一ヶ月程前に真っ白なそれを積もらせていた常緑樹が緑色をけぶらせていた景色で景観が、まるで幻であったかの様に感じられた。
 僅かに通り過ぎてしまった季節は単純に純粋に微かな過去であり、誓って決して偽りではないのだ、と一つを頷く私は瞼を伏せて、ストン、と吉良邸の縁側に腰掛けたままとなる。
 感謝の気持ちのままにこの屋敷を離れてしまったとしても、直ぐに訪問は出来る距離なのだから、それ程に心配や不安を抱える必要もないだろうに、とこの心は迷いもなく思考していた。
 別段、それっきりで縁が切れてしまう訳もなく、寧ろ一部の金銭的には世話を掛けたままになるのだ、と唇を噛み締めそうになるのは砂木沼治が自らを一人前ではない、と理解しているからだ。
 十年は不要だとしても、未だ三年か五年か七年は経過しなければこの身は己のみで生きて行く事も叶いやしないのだ、とヒシヒシ、とそれはそれは厳しい結実が瞼の裏に浮かんでしまえば、フワリ、と彼女の姿もそれに張り付く様だった。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 寂しいですか、悲しいですか、喜んでくれていますか、怒っていますか、とさっぱりときっぱりと把握出来ない吉良瞳子の胸中を想像して夢想してしまったら、砂木沼治が吉良邸を出る、と決定事項が発された当日から、何とはなしに彼女に避けられているこの体躯は、キシリ、と胸が痛む。
 表面上は常日頃の彼女であったけれど、どうにもこうにも仕草や様子や態度が微妙に取り繕われている様な気がするのは、私の自惚れなのだろうか、と苦い想いばかりが込み上げた。
 いっその事、目の前で大声で叫んで泣き出してくれたのなら、抱き締める事も許されるのに、これっぽっちも触れるきっかけさえもが与えられやしない。
 まあ、その様な言動を行うのは彼女らしくない、とも私は身に沁みているのだから、合格おめでとう、と少しだけ頬を持ち上げて見せた吉良瞳子の表情ばかりが胸に響いた。
 苦しそうでも虚しそうでもなく、只々静かに言葉を綴る彼女が何を思考しているのかが私には一つも伝わらないので、息が詰まる様に喉がヒリヒリ、とする如くだ。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 一週間後を彼女は笑って見送ってくれるのだろうか、それとも、微かに涙して握手でもするのだろうか、とぼんやりとした脳内で縁側に座している私の目の前には、少しも変わらずに吉良邸自慢の中庭が存在をする。
 美しくもとてつもなく綺麗に剪定されて手入れの行き届いているこの庭は、とんでもなく吉良瞳子が愛している空間であったので、そうだ、砂木沼治がいなくなっても、この空気は変わりがない、と私は心から安堵した。
 ゆっくりとゆったりと大きく息を吸い込んでからそれを吐き出してしまったら、二酸化炭素が多くを占めているのだろうそれは、もう白色で円形を形成したりはしないのだから、そうだ、冬は終わったのだから、と私は納得して唇を噛み締める。
 この身が吉良邸から存在しなくなったとしても、縁側と面しているこの中庭には変化も変遷もないのだから、彼女は笑んでいられる筈だ、とふと気付いてしまえば、唐突に突然にその思考こそが酷い回路だと知った。
 何と偉い自惚ればかりで形成されているのだろう、と自らを蔑んでしまえば、どうやら砂木沼治が望んでいるのがそればかりだと腑に落ちたので、全く、馬鹿馬鹿しい、とこの喉は失笑しそうになるのだ。

(普段は見せやしない泣き顔を見せて下さい、と祈ってしまう男は、恐ろしく愚かだな、とそれこそ泣きそうになった)


~以下、0331に続く~



スポンサーサイト

右サイドメニュー