ハニー★カム:日誌

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「治瞳科学実験~完全無欠エボリューション~」

治瞳本9ですが、無事に刷り上がってきました!

治瞳科学実験

■「治瞳科学実験~完全無欠エボリューション~」
A5/56P/表紙フルカラー/本文モノクロ/
表紙イラスト:【MATHEMATICA】西野ムギ様(【ハニー★カム】ファーストページよりどうぞ)

■砂木沼コーチと瞳子さんが延々と飲んで、喧嘩したり仲良くしたり、どったんばったんする話。

■本文サンプルは、続きよりどうぞ。








【名前で呼ばないで】 ~治瞳科学実験1話より~

 呼称は誇称で、胡椒は故障。
 壊れてしまった、その欠片。
 カラリ、と崩れて、雲散霧消。
 ペタリ、と貼ったら、振り回しそう。

 治、と呼ばないで下さい、見下されている気分になります、と不可思議な音が私の鼓膜を震わせた。

 パチリ、と瞼を持ち上げて、それはそれは摩訶不思議な感想で感情で感慨を抱えたままに彼を見据えてしまったら、綺麗なライトブラウンの液体を称えている背の低いグラスが、カラン、と空虚に音階を鳴らす。
 常日頃の彼は、砂木沼ではなく、良い加減に名前で呼んで貰えませんか、と事ある毎に切々とこの身に訴えている様な気がしたので、私はとんでもない謎を抱き締めては、パチリ、と再度の瞬きをした。
 肩が隠れる程にまでは伸びた、ブラックのうねうねとした波の如くの髪が僅かに彼の瞳と頬とに影を作っているので、余り強くもないのに山程飲んでいるのかしら、何か嫌な事でもあったのかしら、と吉良瞳子は謎を抱き締めたままだ。
 普段はキッ、と世界と日本と宇宙と稲妻町の全てを睨んでいたり、ニヤリ、と口端を持ち上げてはとてつもなくそれらを愛している彼が随分と物憂げなので、はてさて、と私は首を傾げた。
 パーセンテージとして、自信満々な素振りが多めの彼だけれど、なかなかに上手く行かない現象で事象で事柄が目の前に立ち塞がっているのかしら、とジッ、と砂木沼治の姿を見やる。
 じゃあ、私はずっとずっとずっと名字で呼ぶわ、誓って見下していないもの、と淡々と声にしてしまえば、ピクリ、とかなりの所で伏せられていた彼の瞼が不可解そうに動いた。
 砂木沼君は昔から、砂木沼、って顔をしているし、治、よりもきっと貴方にはより似合うわよね、とつらつらと科白を綴ってしまえば、ダアン! と彼の握られた右拳が吉良邸の縁側脇に設置してあるダークブラウンのサイドテーブルを偉く揺らしたので、あら、と私は三度目の瞬きをする。
 ギロリ、と酷く真っ赤な目が私を睨み据えて、治と呼んで下さい、と恐ろしい位の低い声音で訴えるので、一体全体どっちが本音なのかしら、と吉良瞳子の胸中は摩訶不思議で席巻されて行くみたいだ。
 はいはい、分かったわよ、と随分と酔っているらしい、十年強前に、漆黒と白色の球体で持って自らを世界を征服しにやって来た地球外生命体だ、と豪語した頃と比較すると、大層背の伸びた体躯を見やってしまえば、バッ、と突然に唐突に掌を取られてしまった。
 カラン、と私が手にしている左手ではクリアなグラスの中で氷とライトブラウンの液体が音を鳴らして、彼は吉良瞳子の右手をギュッ、と握り締める。

 治です、宜しくお願いします、と熱っぽく告白されたので、どうにもこうにも眉根が寄りそうになった。

 良くは分からないけれど、何かの選挙にでも立候補するつもりなのかしら、これじゃあ、さっぱりときっぱりと当選しそうにないけれど、と砂木沼治の落ち着きやしない服装をチラリ、と視界に映せば、彼の真っ赤な水晶体はまるで今にも燃え上がりそうだ。
 過去に、赤い目と片仮名の名前は捨てたのじゃあなかったかしら、とほとほと首を捻ってしまいそうになる私を責められる存在は、宇宙に只の一人だっていないのに違いない。
 ジッ、と私を見詰めているその光彩が酷く真剣で真摯な上に、とんでもなく視点が定まっていなさそうので、はいはい、治ね、と酔っぱらい相手に適当に相槌を打った。
 刹那、軽く両目を見開いた彼はとてつもなく照れくさそうな頬をしてから、偉く苦笑をしてその頬を緩めているので、寧ろ私の方が驚嘆をする。
 そんなに名前で呼んだ事がなかったかしら、と今宵一番の不可思議で持って彼を見据えてしまったら、はい、と真っ直ぐに吉良瞳子に返答をする唇が目の前にあるので、あら、嬉しそうだわ、と吹き出しそうになった。
 ふうん、と少しだけ興味深くなって彼を見返していれば、あの、もう一度呼んで貰えませんか、とこの身に乞う声音が、真っ暗闇ではなく群青と濃紺と白灰が入り交じっている空の夜半に、あの、もう一度しても構いませんか、と私に問うもどかしそうな瞳とそっくりであったので、果たして同じ意味合いで同じ容量の希求なのかしら、と可笑しくなる。
 彼でも、欲しくて欲しくて仕方がない事があるのかしら、と威風堂々とした振りだって可能な、豪胆な素振りも得意としている体躯を値踏みする様に見据えてしまえば、どうぞ、と促されてしまった。
 別段酔っぱらい相手だし良いかしら、とほんのりと浮かんで来る胸中になぜだか負けてしまって、そうねえ、砂木沼君はまあ、只の一つだって間違いはなく治よね、と声にしてしまったのなら、握られたままだった右手の甲に緩み切った唇が口付けたので、あら、と私は四度目の瞬きをする。 
 面白いわ、とまじまじと彼の顔を見据えた瞬間に、グラリ、と貴方の上半身が傾いて、ゴン、とその額が眼下のサイドテーブルに酷い勢いで自由落下をするから、ああ、砂木沼君、私ね。

 もしや、歓喜で気絶したのかしら、ととんでもなく驚愕しながらも、とてつもなく笑い出しそうにもなっているのよ。

 ***

「…………」
「…………」
「ちょっと治、ええと、治、君」
「が」
「…………」
「…………」
「凄い音だったけれど、大丈夫?」
「な」
「…………」
「…………」
「額が、割れていたりしないかしら」
「いで」
「…………」
「…………」
「え?」
「で、下さい」
「…………」
「…………」
「何?」
「ばないで、くれませんか」
「…………」
「…………」
「何よ」
「治とは、呼ばないで、貰えませんかね」
「…………」
「…………」
「な」
「ああ、無念ですね」
「…………」
「…………」

 私は吉良瞳子と、対等で在りたいと思考していまして、それは彼女と出会った刻からこれっぽっちも変化も変遷もしてもいない想いなのですが、なかなかに届かない上に伝わらない様でしてね、偉く難解で難航して私を悩ませます、と懇々と私の目の前に謎の科白を並べているのが誓って決して砂木沼治であるので、私の瞼は何度だって瞬きを繰り返した。
 彼は誰と話しているつもりなのかしら、ととんと首を捻ってしまいそうになれば、大層熱っぽい目線が吉良瞳子を焼こうとしているので、ヒラヒラ、と彼の光彩の手前で掌と指先をかざしたくなる。
 吉良邸の縁側の脇で斜めになりそうになっているダークブラウンの小さなサイドテーブルから、ユラリ、と沈んでいた額と髪と上半身を持ち上げた彼は、ギロリ、と私を睨んで来るので、睨み返した方が礼儀正しいのかしら、と頬が持ち上がりそうになった。
 分かったわ、どちらでも良いじゃない、砂木沼でも治でも、貴方は砂木沼治でしょう、それこそが大事なんじゃあないかしら、とそれはそれは真っ直ぐに酔っぱらいに向かって問うてしまえば、ムッ、とした頬は私の至近距離で更に不機嫌そうにするので、何が望みなのだかが判然としなくなるのだ。

「…………」
「…………」
「瞳子監督!」
「あら、久しぶりじゃない、その呼び名」
「…………」
「…………」
「ああ、間違えました、瞳子さん!」
「別に、どっちでも良いわよ」
「…………」
「…………」
「良くはありません!」
「そう?」
「…………」
「…………」
「駄目なんです!」
「どうして?」
「…………」
「…………」
「兎に角、駄目なんです!」
「もう、支離滅裂よ、今日の砂木沼君は」
「…………」
「…………」

 この酔っぱらい、と目を細めて彼を見返してしまったら、バアン、と握り拳でサイドテーブルを叩き付けた彼が顔を持ち上げて、瞳子監督、と偉く頬を歪めて苦しそうにそうと発するので、ドキリ、と無性に胸が鳴ってしまった。
 私を強くして欲しい、と過去に青い屋根と車体をした中型バスと地球外生命体と闘うチームを率いていた私に願って見せた当時の瞳とそれがそっくりそのままであったので、嫌だわ、あの顔に弱いのよね、とこの胸中は困惑をする。
 偉く真っ直ぐなのだ、とヒシヒシ、と彼の意志と意図と決意の様なそれを感じる吉良瞳子は、何とはなしに、治と呼んで欲しい、と希求する彼も、治と呼ばないで欲しい、と発言する彼も、特別格別嘘偽りではなく、どちらも本当なのかも知れない、と予想と予測と予感がした。
 何だか少しだけ懐かしい、と頬が綻んでしまったら、クスリ、と零れた笑みを勘違いをしたのか、ギリ、と彼が睨んで来るので、とんでもなく可笑しくなる。
 クスクスクス、と彼に握られたままの右手に唇が触れそうに笑ってしまったのなら、グイ、と吉良瞳子の掌をサイドテーブルに押し付けた彼が、その唇を私に押し当てて来るので、クスリ、と余計に笑いそうになって。

 彼はやはり、治と呼んで下さい、とどうやら、そちらの希求を口にするのだ。

(ええ、砂木沼君、ととびきりの笑顔で応えてしまったら、ガクリ、と落ちた彼の肩は寂しそうにして、引力に逆らえなかったけれど)


~以下、治瞳科学実験に続く~




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